「現代に、表現の豊かさは必要ない…?」時代にうつろう歌詞のあり方 VRミュージシャンの疑問に共感ぞくぞく
「例えば、『フラれてつらい』と伝えたい時に『フラれてつらい』と言わずに『部屋が広い』とか『風が冷たい』とかって表すのが表現の豊かさだと思うんだけど、最近の音楽にはあんまりそういうの求められてない気がする」 【動画】投稿者さんのVRバンド“JOHNNY HENRY”のMVを見る 歌は世につれ世は歌につれ――その時代によって人々に受け入れられる音楽は変わってゆくもの。ですが、できることなら変わらず残り続けて欲しい要素もあるのかもしれません。 VRバンド“JOHNNY HENRY”のボーカルであるYAMADAさん(@yamada_is_aniki)は、この度「作詞」について疑問を呈しました。その指摘に、多数の共感の声が上がっています。 楽曲のなかでも重要なウエイトを占める歌詞。短いフレイズのなかで描写や感情を表現するため、直喩や暗喩といった文学的な表現が多用されることもあります。 なかには、聴き手に対して強烈なインパクトを残す一節も。特に、昔の楽曲のなかには、作り手のこだわりが感じられる、いわゆる「エモい」詞が多い印象がありますね。 情景が思い浮かんだり、情感が込められたり――そんな表現の豊かさが、日本の詩(歌詞)の良さだったのかもしれません。しかし、最近の楽曲では、そういう表現が少なくなっているのではないか――とYAMADAさんは語ります。 そんなYAMADAさんのX(旧Twitter)の投稿に対し、リプ欄にもたくさんのコメントが。YAMADAさんの意見に共感する声も多くありました。 「その辺の表現にピンとこない人増えた印象がある」 「活字離れで比喩使わない」 「SNSの発達のせいなのか、端的にわかりやすいとか、解釈の幅がせまい表現の方が好まれているように感じます」 「時代は『月が綺麗ですね』じゃなくなったのか...」 その他にも、「(槇原敬之さんの)『もう恋なんてしない』のワンフレーズ『いつもより眺めがいい左に少し戸惑ってるよ』は本当に天才的で切なすぎる名文」と、自身が素晴らしいと思う歌詞について紹介する方や、「米津玄師さんの歌詞は好きですよ」と、最近でも素敵な歌詞の楽曲はあるという指摘をされた方も。 実にさまざまな感想が寄せられており、ポストは21万ものいいねが付く話題となりました。 YAMADAさんに聞きました。 ――リプ欄には、自身が素敵だと思う歌詞を紹介される方もいましたが、YAMADAさん的に歌詞が素晴らしいと思う思い出の曲はありますか? YAMADAさん:小沢健二さんの『いちょう並木のセレナーデ』です。もう全体を通して素晴らしすぎるのですが特に白眉と言えるのは「やがて僕らが過ごした時間や 呼びかわしあった名前など いつか遠くへ飛び去る 星屑の中のランデブー」という一節です。だんだん相手との思い出は失われていくのに、好きだったという感情だけこびりついて、何に執着しているのかわからなくなる――そんなどうしようもない矛盾を感じてしまいます。サビの「もし君がそばに居た 眠れない日々がまた来るのなら?」というフレイズも、本来望ましくない“眠れない日々”を望んでしまう感情の大きさに共感して胸が痛くなります。 ――また、最近聴いた楽曲で素晴らしいと感じたものは? YAMADAさん:自分と同じくメタバース(仮想空間)上で活動している“93poetry”の『時をかけるおじさん』という曲はなかなか響くものがあります。時の流れを人生というスケールで見て曲に落とし込む彼の視野の広さと、誰にでもあるであろう「憧れの自分になれなかった後悔」を想像しやすい情景に落とし込む表現力の高さに感動しました。彼のライブはかなり泣けるので、ぜひメタバース上で見てほしいです。 ――そのような楽曲がある一方で、表現の豊かさが失われつつあると指摘されていますが、それにはどのような理由があると思われますか? YAMADAさん:引用リポストやリプライでもたくさん指摘がありましたが、コンテンツにかける時間がどんどん短くなり、前後の文脈をすっ飛ばしても意味を理解できる表現が好まれるようになったのかなと思います。これは単に時代の変化であって、感性の劣化とかそういう話ではないと思っています。 ――逆に、ストレートな表現が良いと思うこともあったりしますか? YAMADAさん:近頃の主流は、ヒップホップなどメロディの詰まった早口な曲ですから、理解に間を要する隠喩を駆使した表現よりも、直接的な表現の方が向いているかと。情報量も語数の多さでカバーできますし、「現代」というジャンルのための表現ではないでしょうか。 ――時代の変遷に合わせた楽曲を作り、発信してゆくプロの方も多いと思います。そのような風潮についてどう思われますか?また、ご自身では、どのようなことを大切に曲作りや歌詞作りをされていますか? YAMADAさん:変わろうが変わらなかろうが、今自分がやってることに自信を持って向き合っていれば、それはかっこいいと思います。自身のバンドでは、常に最優先しているのは「ポップであること」です。とにかく聴いてて楽しい音楽を作りたいですね。暗喩もよく使いますが、サビにわかりやすい表現を置くことで、連想しやすくなる作詞を心がけています。とはいえ、どう解釈するかは聴いてくれる方にお任せします。 ◇ ◇ VRバンド“JOHNNY HENRY”のメンバーであるYAMADAさん。 メタバース系アプリ・VRChatにてライブを行っているほか、YouTubeでミュージックビデオも公開中です。 「お時間があればぜひ!ポストで大口叩いてしまったので、作詞面でどう思われるかとても不安ですが(笑)」(YAMADAさん) (まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・竹中 友一(RinToris))
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