イングランド英雄の監督人生“ラストチャンス” 日本人MF起用にも影響…“疑問”払拭への挑戦【現地発コラム】
「2部以下とプレミアとでは、選手のエリート具合に差があることに気付くべき」
就任2日後だった新監督の影響力は限られていたに違いないが、カーディフ戦でのチームは、攻めれば威勢はいいが守れば脆い、過去の「ランパード軍」風でもあった。攻めの姿勢で入ったが、相手1本目のCK(コーナーキック)から先制点を奪われている。すぐさま追いつくが、後半早々に再びリードを許し、敗戦回避には終盤に得たPKを必要とした。 監督交代による目に見えた変化としては、採用が増えていた3バックから、開幕当初の4バックへとシステムが戻されていた。ベンチスタートが増えていた坂元にとっては好都合だ。4-2-3-1の右ウイングで先発起用されると、左足からの絶妙な浮き玉で1度目の同点ゴールを演出している。24歳の右SBミラン・ファン・エバイクとの縦の連携も良く、23歳のCBボビー・トーマスが、坂元に走り込ませようとロングパスを試みてもいた。 次第に存在感が薄れた点は今後の課題だ。だが、移籍当初からイングランドでも通用しているドリブルと、日本人選手らしく守備も疎かにしないハードワークを身上とするウインガーは、同様の持ち味でチェルシー正監督当時のランパードに頼りにされた、ウィリアン(現オリンピアコス)のようなキーマンともなり得る。 その指揮官は、「2部以下とプレミアとでは、選手のエリート具合に差があることに気付くべきだ」と指摘するのは、オンラインメディアのキャピタル・フットボールに寄稿するポール・ラガン記者だ。ベテランのチェルシー番は、こう説明している。 「ある一定の水準を選手たちに求めるのは結構。ただ、プレミア強豪レベルのスタンダードを押し付けるのではなく、配下の選手たちが持つ能力とメンタリティを理解してもらわなければ困る。実際、チーム事情へのアジャストが重要である点は、プレミアではあるがエバートンでも学んでいると思うがね」 確かに、エバートンでのランパード体制で評価できる点を挙げるとすれば、見応えのある攻撃的サッカーという理想には固執せず、なりふり構わずにしぶとく戦う方向性を打ち出して降格を回避した、就任1シーズン目の現実直視になるだろう。 選手としての2001年チェルシー入り当時からランパードを知るポールは、「フランクはとても賢くて、意志の強い意欲的な人間だ」と言う。個人的にも同感だ。やはり20年以上前のことだが、ランパードの実家で元イングランド代表DFの父親をインタビューした際に聞いた「息子像」とも合致する。 ポール曰く、ダービーに残っているべきだったと言われることもあるチェルシーでの正監督就任、そして、本人が後に「子守り」に例えた暫定役にしても、「リスクは想定済みだったはず」ということになる。 「長い目で監督キャリアを考えれば、幅広い経験をしておくに越したことはないと理解していたに違いない。良い意味でエリート的な姿勢で物事に取り組むのがフランクだ。何をするにも、やるからには最大限の成果を求めたがる。監督としては、イングランド代表でのポジションが究極の目標なのだろう。 そのためにも、まずはいっぱしの監督として認められること。成功が約束されているわけではないが、コベントリーは非常に有効な足がかりになる」 最後のチャンスでもあり、過去最高のチャンスでもある。そう解釈できるコベントリーでのランパード体制がスタートを切った。クラブはプレミア復帰を、新監督はトップレベルへの実績作りを目指して。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka