湖底にたまった泥から過去7万年の気候がわかる!? 福井県にある「奇跡の湖」とは
しかし、さらに前の時代の氷期まで調べると気候は安定とはほど遠く、極端な高温や低温、極端な大雨や干ばつがめまぐるしく繰り返されたり、気温が10年以内に5℃以上も跳ね上がるのがふつうだった。中川さんは、こういう気候を「暴れる気候」と呼んでいる。 ところが、約1万2千年前になると暴れる気候の時代は終わり、安定した気候に入った。この変化が農耕を可能にしたと中川さんは考えている。次の年の同じ時期の天気も前の年と似ている可能性が高くなり、作物の栽培が可能になったからだ。 現代の私たちにとっての問題は、安定した気候の時代がいつまで続くかだ。近い将来、地球温暖化を引き金にして、「暴れる気候」の時代が訪れる可能性も否定できないと中川さんは言う。そんな時代が来たら農業が大きなダメージを受けるだけでなく、経済も混乱して、今のような豊かな社会の土台が大きく揺らぐかもしれない。 「地球温暖化がこの先どのような気候変動や災害をもたらすのか、より正確に理解し予測するためにも、水月湖の年縞をはじめとする過去の気候を詳しく知る研究が欠かせません。私たちは、気候の専門家だけでなく、考古学や歴史、年代測定の専門家とともに、その研究に全力で取り組んでいきます」 〇水月湖が「奇跡の湖」となった四つ理由は? ふつうの湖では湖底に長い年月に及ぶきれいな年縞ができることはない。流れ込む水や土砂、波などで湖底の泥がかき混ぜられるからだ。だが、水月湖では湖底に長期間にわたるきれいな年縞が保存されて「奇跡の湖」となった。理由は、以下の四つが考えられる。 1)湖に直接流れ込む大きな川がなく、水深も深いため、水や石などの流入で湖底に積もった年縞がかき乱されなかった。 2)周囲を山で囲まれ風の影響が小さいため、波も立ちにくく湖底の年縞が乱されなかった。 3)深いところは酸素がないため生物がいない。そのため、年縞が生物に乱されることもなかった。 4)水月湖は、長い年月にわたって少しずつ沈み続けている。そのため、湖底にたまった堆積物で湖が埋まることがなかった。 (文/上浪春海)
上浪春海