「すぐに救急車を呼んで!」「決して呼ばないで」…背反する家族の意向。倒れる前に決めておきたい「最期の対応」
2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル 介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務めた筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(髙口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。 『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第23回 『介護とは「親の“死に方”を選ぶ」こと…「後悔のない選択」は不可能だが、「意味のある選択」をするために必要なこととは』より続く
容態が急変したとき
ターミナルステージにさしかかったときに家族に確認することは、状態が急変したときに救急車を呼ぶかどうかです。 私がこの質問をすると、ほとんどの人が、 「治る病気なら、病院で治療してほしい」 「痛みや苦しみから解放されるなら、病院に連れて行きたい」 と言います。 でも、どんな名医でも、はっきりとは答えられないでしょう。「確実によくなる」「確実に痛みがとれる」という保証はどこにもないのです。 わかっているのは、病院に行けば必ず検査が行われて病名がつき、病名がつけばすぐに治療が始まるということです。
はっきりとさせておくべきこと
このとき、お年寄り本人や家族の意向がはっきりしているかどうかはとても重要です。 本人が明確な意思をもっている場合はそれを尊重しますが、家族の意向と異なる場合、必要であれば職員立ち会いの下に皆さんで話し合いを行います。 しかし、もはや本人の意思を確認できる状態になく、また元気な時期にも明確な希望を伝えられていない場合、一般的に介護施設では、家族の意向に添って対応します。 「わずかな変化でも、すぐ救急車を呼んでください。死ぬのは病院でなければ困ります」と言う人がいる一方で、 「決して救急車は呼ばないで。おじいちゃんのときは、わからないまま救急車を呼びました。運ばれた病院には感謝しています。だけども、もういいです。おばあちゃんのときは、病院に行きたくないです」 と言う人もいます。 しかし多くの家族はなかなか決断できなかったり、決めてしまってからも、本人の状態の変化や医師の言葉などによって、その判断が揺らいだりしがちです。 『「血まみれになって前歯が3本も抜けた」…施設介護の90歳の母が病院で受けていた「衝撃的な措置」』へ続く
髙口 光子(理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士・現:介護アドバイザー/「元気がでる介護研究所」代表)