喪失感を抱きながらも、傷つきはしなかった――大竹しのぶがコロナ禍に思うこと
長引くコロナ禍で、公演やライブの延期、中止が今も相次いでいる。「明日駄目になるかもしれないと思っても、『今日は楽しい』『今日はできた』と思いながら、生きています」。大竹しのぶは、稽古を重ねる日々をそう語る。昨年4月には、準備を終えた公演が開幕直前に全て中止。幕が開いても、客席の埋まらない非常時が続く。舞台からがらんとした客席を見つめて、気づいたことがあるという。(取材・文:塚原沙耶/撮影:野村佐紀子/Yahoo!ニュース 特集編集部) (文中敬称略)
1カ月半の稽古を経て、中止が決まった
「急にサヨナラですね。散った。散ったって感じです」 2020年4月4日に初日を迎えるはずだった舞台『桜の園』は、全公演が中止になった。2月半ばから稽古を積み重ね、準備は万全。「あとはお客様に見せるだけ」という状態だった。 「稽古中は、次々に舞台が中止になるのを聞いたりして不安はあったんですけど、とにかく稽古が楽しかったし、『4月の頭にはきっと大丈夫だよ』って、どこかでたかをくくっていたと思います。3月の頭ぐらいから中止の劇場が増えて、『私たちもできなくなったりして』『幻になったりしてね』『すばらしかったらしいよっていううわさが立ったりして』なんて言っていた。だんだん、これが現実になっていくんだって思いました」 「『中止になりました』という電話が、プロデューサーからかかってきて。だから、楽屋に荷物をみんな置いたままだったんです。それぞれが時間をずらして、一回も本番に使えなかった楽屋から、荷物を引き揚げに行きました」
共演者とは「いつか絶対会えるよね」「今じゃないんだよね」と電話やメールでやりとりをした。同じキャストがそろうのは、この先いつになるか分からない。 「杉咲花ちゃんが初舞台だったんです。一生懸命お稽古して、少しずつ少しずつ、いろんなことを学んで、大きくなって豊かになって。お稽古というのはこういうことなんだなって思いました。ノートを作って、毎日毎日書き込んで。本当に可愛らしくて、美しくて。花ちゃんの初舞台ができなかったことが悲しいって、(宮沢)りえちゃんとか私とか、みんなで泣いちゃった。お客様には見せられなかったけども、1カ月半の稽古は、すごく美しいものだったなと思います」 喪失感を抱きながらも、「傷つきはしなかった」ときっぱり言う。 「緊急事態宣言という、今まで聞いたことがない状況の中で、芝居をそれでもやりたいのかというと、そうじゃない。できないだろう、仕方がないと思いました。こういう大変な状況で、命がけで働いている人から見たら、芝居は必要じゃないと思います」 「だけど、いつかは必要になる時がある。芝居と出会ってくれることがあると思う。絶対に芝居やエンターテインメントはなくならないという、確固たる自信があります。『明けない夜はない』というせりふで知られるシェークスピアの『マクベス』は、疫病で劇場が閉鎖された時に生まれた。『今はやらないけど、いつか、あなたのために芝居をやります。いつか私たちの芝居を見に来てください』という気持ちは、全く揺らがない。絶対なくならないって信じられるから、傷つきはしないです」