【番記者の視点】浦和・小泉佳穂「苦境をひっくるめて楽しむ」SNSはシャットアウト、言葉に感じた精神面の進化
【浦和担当・星野浩司】 3―0で圧勝した鳥栖戦(7日・埼玉)後の取材エリア。得点を決めたFWチアゴサンタナ、松尾佑介、大久保智明らが多くの報道陣の質問に答える中、あえてMF小泉佳穂を呼び止めた。3試合ぶりにピッチでプレーした心境を聞きたかったからだ。 「感触としては良かった。楽しくサッカーができた」 2―0の後半26分から投入。特に圧巻だったのは4分後の1プレーだった。敵陣左で後方からパスを受け、素早いターンから間髪入れずに左足で縦パス。FW中島翔哉の決定機を作った。「鳥栖は絶対に後半は(運動量が)落ちる、間はスカスカ空くと思ってた。僕や翔哉くん、トモ(大久保)もかなりやりやすかったので、いいリズムでサッカーができた」。相手数人の間でパスを受けてボールをさばき、相手センターバックやボランチへ猛烈プレス。“らしさ”は健在だった。 開幕から主力インサイドハーフ(IH)として4戦連続で先発。だが、3月30日の福岡戦以降は3戦連続ベンチスタートが続いている。自身の出場機会が減る中、チーム状況は徐々に上向き。複雑な心情とは分かっていながらもあえて心境を聞くと、20秒ほど考えた後に答えてくれた。 「いろいろあるんですけど…、簡潔に言うと、自分のサッカーというか、人生の生き方を見直すいい機会になった。サッカーに対する向き合い方みたいなもの。もう少し楽しもうと思っている。先発から外れることも、試合に出れなかったりすることも、結果を出せないことも、全部含めて楽しめたらいいなと思う」 主力を担いながら、試合に出られなくなる状況は昨年もあった。5月6日にACLを制覇し、中3日で迎えた鳥栖戦(0●2、埼玉)。途中出場から自陣低い位置で自身のパスを奪われて失点した。「ミスに対する恐怖心がすごく大きい」「自分の精神的な弱さがある」。メンタル面も影響してコンディションを落とし、その後は3か月ほどスタメンから遠ざかった。 浦和レッズというビッグクラブの中心選手としての重圧や責任と向き合いながら、ピッチでの1プレー、1プレーに集中した。「プレッシャーや緊張は当たり前。自分を見失っちゃうのは良くないし、楽しくない。そういう意識でやる」。9月以降はリーグ戦、クラブW杯など主軸に返り咲いた。 そして迎えた浦和での4年目。ヘグモ新監督から左IHの1番手を任されてきた中、MF岩尾憲と入れ替わる形で先発を離れる状況が続く。だが、小泉の言葉には昨年からの精神面の「進化」を感じた。 「ずっとしんどくて…。開幕から、このクラブでプレーするというのは、僕は本当にしんどくて、そのしんどさが自分の人生にもプレーにもあんまり良い方向に反映されないというか、しんどくて追い込んだ結果、良くなるんだったらいいんですけど、結果的に自分の良さも消えちゃうし、生きててあまり楽しくない。苦境や苦しい時期も全部ひっくるめて楽しめたらいいかなと思う」 昨年の経験があるからこそ、苦境をも楽しもうとするメンタルを持つことができている。「つい自分で自分を精神的にも追い込みすぎちゃうところがある。去年もそうですけど、今年はそこまで深みにはまる前に1個プラスの方に向く機会になった」。名前は伏せたが、周囲からの助言もプラスに作用したという。「サッカーはゲーム、人生もゲームみたいなもの…というようなことを言われた。より自分の人生を俯瞰してというか、そういう感覚で見てみよう、楽しんでみようと思えた」 ポジティブに、前向きに行動するために変えたことが2つある。1つは考え方。「自分は先のことを想像していろいろ考えた結果、自分で自分を追い込みすぎてしまう。あまり先のことを考えすぎないように、本当にとにかく今その瞬間をしっかり楽しみ続けられればと思う」 もう1つは、約2週間前からSNSを見ることを一切やめたこと。「SNSを全シャットアウトしました。今はSNSを見ることで良い、悪いに関わらずエネルギーを奪われる。変えてみたら、自分としはすこぶる良いです」。Xやインスタグラムなどは励ましなどプラスの声もあれば、批判的なコメントも当然ある。感情を左右される要因を絶ち、ピッチでのプレーにつなげている。 3戦ぶりにピッチに復帰し、次に臨むのはアウェーの柏戦(12日、三協F柏)。約9分間の取材のラスト。スタメンを奪いにいく意気込みを聞くと、小泉は冷静な口調で語った。 「スタメンに戻るためにどうこうとかはあんまり考えなくて、もちろんスタメンで出るために頑張るけど、それを目的にはしない。1個1個、練習や試合で真面目に、その瞬間、瞬間を全力で楽しめればいいと思う。うまくいってもいかなくても、それはそれで人生だから」
報知新聞社