地元で論争も? 「越前おろしそば」に正しい食べ方はあるのか
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鰹節とねぎを薬味にし、青首大根をすりおろした絞り汁と出汁をたっぷりとそばにかけて味わう。これが東京・日本橋の福井料理店「御清水庵 清恵(おしょうずあん・きよえ)」でいただく「越前おろしそば」のスタイルだ。そばは、全国どこでも食べられている郷土食だけれど、フードジャーナリストの向笠千恵子さんは「おろしそばだけは福井県以外でなかなか見かけない」と自著に書いている。それくらい、同じ蕎麦でも郷土色が強い料理なのだろう。
「越前おろしそば」の正しい食べ方は?
「御清水庵 清恵」のおろしそばを箸にとって口に含むと、大げさでなく福井の味がする。東京で食べる「もりそば」や「ざるそば」は、ツルツルとしたのど越しも楽しむが、「越前おろしそば」は、よく噛んで味わって食べる。そうすると、そばそのものの香ばしさと甘み、福井産の醤油で煮た出汁、そして辛みのきいた大根おろしが口の中でバランス良くまとまって、実においしい。 もっとも、福井県内では、この食べ方のほかに、(1)そばの上に大根おろしと薬味を乗せて出汁をかける(2)出汁のなかに大根おろしを混ぜて、薬味が乗ったそばにかける ── などといったバリエーションがある。だから地元では「どの食べ方が一番おいしいのか」という論争になることもあるらしい。しかし、そこは「おいしければ、どんな食べ方をしてもいいじゃないか」という鷹揚な場所に落ち着くという。
東京のそばは、猪口(ちょこ)に入った出汁に少しだけつけて食べるので、「御清水庵 清恵」でも、どう食べたらいいか迷って聞くお客さんもいる。福井市出身の主人・中本好美さんは、猪口に入った出汁と大根おろしの絞り汁をそばにかけて食べるのが福井の流儀であることを話したうえで、「ご自由にお食べになってください」と説明する。「そばをかき込むのはみっともないと思う女性がいるかもしれませんし、『食べ方を選びたい』というお客さんの気持ちを大切にするのも福井の良さです」と話す。