地元で論争も? 「越前おろしそば」に正しい食べ方はあるのか
「越前おろしそば」はA級グルメ
東京・日本橋は、江戸の昔から商業と文化の中心地として繁栄してきた。中本さんがここに店を開いたのは、14年前。53歳のときだった。「店を持つ前は会社員で営業をしていました。出張先で自己紹介をすると福島や福岡の違いが分かってもらえてなくて悔しい思いをしていたんです。同じ店を出すなら、日本の中心で福井を売り込みたかった。こうして店を続けられているのは、東京のお客さんが福井を認めてくれたからでしょう」。 中本さんには、おいしい食べ物をきっかけに福井を知ってもらいたい、という強い思いがある。「B級グルメを扱うテレビ番組に出ないかという話がありましたが、お断りしたことがあります。確かに、いつも地元で食べている“身近な料理”という意味ではB級なのかもしれませんが、東京に持ってくると、本当においしいA級グルメなんです」。
「越前おろしそば」は、食材を活かしたシンプルな料理だ。だからこそ、中本さんはこう言う。「食材の味を活かそうとすると、ていねいにひと手間をかけるしかないんですよ。それ以上の味付けはできません」。複雑な味付けなどで技巧を凝らした“手の込んだ料理”と、“ひと手間をかけた料理”は違う。それが「越前おろしそば」でもあり、福井の郷土料理なのだろう。
そば打ち体験会での食べ方は?
「越前おろしそば」の故郷である福井県は、そばの栽培面積が約3800ヘクタール(2014年)で全国4位を誇る。そばはもともと、救荒作物として、日本中で栽培されてきた。福井県での歴史は、戦国武将朝倉孝景が福井市の一乗谷に築城した1473年ごろにさかのぼる。その頃は、そばがきや団子にして食べていたそうで、「おろしそば」として広めたのは、結城秀康の家臣で越前府中(現・越前市)の領主・本多富正だとされる。 本多富正が初めて食べたおろしそばがどんなスタイルだったかは、知るよしもないが、そういった福井のそば文化と伝統を守り、全国に情報発信を行っているのが「福井そばルネッサンス推進実行委員会」。大野市や勝山市といったそばの産地のほか、業界団体などで構成する団体で、9月5日と6日には、県のアンテナショップ「ふくい南青山291」でそば打ち体験講座を開き、都内のそば打ち愛好家や家族連れら約110人が参加した。