北九州の台所「旦過市場」は本当に再生できるのか? 老朽化建物が続々解体、成功のカギを握る超重要な要因とは?
旦過市場の多様な顔
小倉地区が直面している構造的な課題のなかで、旦過市場はどのような役割を果たすことができるだろうか。この点について考える際に、栗山喬と仲間浩一の論文「利用パターンと意識から見る場所と人のつながりに関する基礎的研究 ~北九州市小倉北区旦過市場を例として~」(「土木学会環境・デザイン研究講演集」No.5)が示唆に富んでいる。 この研究では、旦過市場の利用実態を詳細に分析し、市場が持つ多面的な社会機能を明らかにしている。研究によると、旦過市場の来訪者の行動パターンと意識には五つのタイプが確認されている。以下に引用する。 ●生活習慣型 「各業種においてまんべんなく常連店をもっており、毎日の生活の繰り返しの中で自然な存在として旦過市場を訪れ利用している」 ●おしゃべり・くつろぎ型 「旦過市場内にいる時間は長いのに、人と同じ店舗はあまり選んでおらず、市場のなかで思い思いに自分の時間を過ごせるような相手や場所を見いだしている」 ●日和見型 「旦過市場近くに住んでいるので、訪れたいときに気構えなく市場をしょっちゅう訪れており、市場を訪れることが暮らしの中での気軽な息抜きになっている」 ●店舗のぞき見型 「旦過市場への来訪頻度は高いが市場の特定の場所とのつながりは弱く、買い物や人とのコミュニケーションもあまり行っていないと思われる」 ●買い出し型 「旦過市場への来訪頻度が低く常連だと思う店舗も無い。よって、市場を訪れることは生活のうえでなくてはならない行動ではなく、非日常の体験になっているだろうと思われる」 『令和4年度北九州市商圏報告書』では、商店街に対する市民のニーズの特徴が明らかになっている。週に1回以上商店街を利用している人は全体の19.8%と限定的だが、年齢層による違いが顕著だ。 60歳以上の利用者では、男性が23.1%、女性が29.2%と比較的高い利用率を示している。利用理由としては、「近い」と回答した人が51.3%で最も多く、次いで「品質・鮮度がよい」が38.9%、「商品が豊富」が28.0%と続いている。特に注目すべきは、市民が商店街に期待する役割だ。 ・近隣住民の身近な買い物場所(61.2%) ・高齢者や交通弱者のための買い物場所(54.7%) ・地域のにぎわいづくり(41.7%) といった回答から、商店街には単なる買い物の場以上に“地域インフラ”としての機能が期待されていることがわかる。