川内優輝からの伝言「日本がマラソンで世界と戦うために必要なこと」
“日本代表ラストラン”を表明していた男はフィナーレを飾るべく、完全燃焼ともいうべき激走を見せた。レース前半で看板に激突して、中本に遅れた後の23km付近では転倒。普通なら、気持ちが切れてもおかしくないが、最強の公務員ランナーは最後まで諦めなかった。 「看板にぶつかってよろけたんですけど、追いつきましたし、転び方もうまくて、特に出血もなかった。給水に失敗したときも焦らずにゼネラルをとって、大丈夫だと自分に言い聞かせました。アクシデントがあったなかでも頑張れたのは過去の経験が生きた部分もありますね。後半に抜いた選手たちも、その多くが以前同じレースを走ったことのある選手。抜かす瞬間はガッと行って、絶対につかせないようにしました」 25km地点は20位で入賞ラインまで36秒差だったが、そこから徐々に順位を上げていく。 過去2回出場した世界選手権は17位(テグ)と18位(モスクワ)。沿道から「17位だぞ!」と声がかかると、「もう17位は嫌だ。過去の経験で、粘っていれば絶対に前が落ちてくるので、入賞はきつくても10番はいける」と前を追いかけた。そして、41km付近で中本に追いつき、さらにペースを上げる。ダニエル・ワンジル(ケニア)の背中に急接近したが、わずか3秒及ばなかった。 「8位と7位が見えていたので、悔しい気持ちはありますが、今までの経験を生かして、しっかりと粘ることができました。メダルが目標で、最低入賞と言っていて、最低もいけなかったんですけど、自分のなかでは出し切れた部分もある。この6年間は無駄じゃなかった。日本代表としてやれることはやったのかなと思っています」と川内はロンドンでの走りに胸を張った。 そして、今後マラソンの日本代表で戦う選手たちにメッセージをお願いするとこう話した。 「9位でこんなことを言うのもあれなんですけど、入念な下見をして、陸連の方としっかり意思疎通をする。たとえば、給水は冷やすのか。暑くなるならガンガンに冷やした方がいい。天気予報を確認して、今回は暑くなるのがわかっていたので、ガンガンに冷やしてもらいました。4月には汗の成分分析もやりましたし、とにかくやれることは全部やる。あとはお金をケチっちゃいけない。年末年始に自費でコースを試走したんですけど、今回はその安心感もありましたし、コースのポイントなんかもわかりました。実業団の選手は会社や陸連のお金を期待してしまうかもしれませんが、自分の給料を使ってでも、事前にコース下見をするなど、できるだけ対策を打って、いいイメージを植え付けておくことが大切だと思います」 5000mの自己ベストが13分58秒とスピードのない川内だが、最後の世界選手権では入賞ラインまで迫り、存在感を見せつけた。その“走り”は、絶対的なスピードが不足している日本勢にとって大きなヒントになるはずだ。では、世界大会でメダルをとるために日本の選手たちはどんなレースをすべきなのか?