古田新太「実は破天荒ではなく気遣いの人。それが自分の強み。個人主義は、仕事でも家族関係でも変わらない」
◆「自分の中にないもの」を演じる 古田さんが演じる役柄は、実に幅広い。「NGがなくて便利」なのが役者としての自分の武器と語る古田さんは、どのような心持ちで俳優という職業と向き合っているのか。 俳優である以上、どんな注文も受け入れる準備はしておかなきゃいけないと思っています。たとえば、「役が抜けない」と言っている人は、ビリ―・ミリガン(解離性同一性障害の当事者。ダニエル・キイスの著書『24人のビリー・ミリガン』で話題となった)の役はできないよね。24人いるわけだから。それは俳優としては大失敗だと思うんです。24人の人格を演じられないなら俳優とはいえないし、そのぐらいできなきゃ俳優という職業を楽しめないと思う。 連続殺人犯の役にしても、「いや、オイラの中にはそんな要素ないわ」とか言っている場合じゃない。だからいつでもサイコパスになれなきゃいけないし、そのための準備はしておかなきゃいけないんじゃないかな。 実際の事件を描いたルポ本やノンフィクションが昔から好きで、最近読んだ『死刑囚200人 最後の言葉』(宝島SUGOI文庫)が印象に残っています。直近の死刑囚でいえば、オウム真理教のテロ犯罪者で死刑を執行された人の言葉が載っていて。ほかにも、連続殺人を犯した人たちの獄中の言葉、死刑台にのぼる間際に漏らした一言などが書いてあるのだけど、みんなそれぞれ遺す言葉が違うんですよね。ものすごく開き直っている人もいれば、「あの人にこの言葉を伝えてください」みたいな遺言を遺す人もいる。 殺人を犯した人間は、やっぱりどこか壊れてしまっているんだと思うんです。オイラは殺人を犯してないから、その人たちがどういう心理になっていたのかという部分にすごく興味がある。犯罪者の役を演じることもあるので、ノンフィクション本を読むことは仕事にも通じています。 今回演じるゴノミカド役のような、時代劇やSFに関しては、もはや想像でしかない。だって、誰も本当の侍なんて知らないし。見たことない、そんなの。日光江戸村でしか見たことない。だから、そういう役はてめえの想像で作っちゃっていいものでしょう。本物がいるんだったらそれに寄せていかないといけないけど、「誰も本物を知らない役を演じる」っていうのは、役者に許された特権だと思っているので。そういう意味では、“なんでもあり”の世界の声優の仕事も大好きですね。「自分の中にないものを演じる」ことは、ファンタジーだと思うんです。