知事の“お願い”“要請”に強制力はあるの? 「行政指導」のメリット・デメリット
そもそも「行政指導」って何?
日本のように法治行政の国、いわゆる法治国家においては「法律による行政の原理」が作動し、国や自治体が行政目的を実現するために国民に一定の行動(作為、不作為)を要求するには、元々は法の定めが要る。その法に従い、正式に命令(行政行為)を発して義務を課すのが原則だ。罰則を課すとなると法的根拠が不可欠となる。 一方で、行政の現実は、新しい事態が発生し行政措置が必要とされているのに、これに対応できる適切な法律の定めがないことが少なくない。また根拠規定はあっても、法律の規定を一律に執行するだけでは、新たに発生してきた行政需要に適確に対処できない場合もある。しかし、だからといって、問題事象を前に国、自治体が手をこまねいている訳にはいかない。 まして、不確定なリスクやニーズに対しては、法律の整備がどうしても遅れざるを得ない。そこで国、自治体は、こうした新種の問題に対して多様な法定外の行政手法を工夫して立ち向かわねばならない。様々な非権力的な行政手法を開発し、これを駆使して住民、国民の安心・安全を確保しなければならない。 その1つの方法が行政指導と言われるものだ。行政指導とは「国、自治体が行政目的を達成するために、助言、指導といった非権力的な手段で国民に働きかけてその協力を求め、国民を誘導して、その目的を実現しようとするその作用」をいう。
簡単に言うと、「行政の意思で相手を従わせること」が行政指導だ。ただ、それに従うかどうかは任意であり、公権力で強制はできないという性質を持つ。 もとより、それにも様々な種類と性格に違いがある(図参照)。今回の新型コロナ対策で国の特措法に基づく緊急事態宣言以前に北海道などいくつかの自治体が発出した自前の緊急事態宣言も、国の緊急事態宣言の「解除」後(5月26日以後)に自治体が様々な表現で行動規範を定め「守るよう」お願いしている行為も、図の5「相手方に強制と誤解させる行政指導」に当たるもの。 ある種、強制力があると思わせる雰囲気をつくりながら相手方に迫るやり方だ。行政機関側の優位性がそこにあろう。理解十分で積極的に協力しようという人もいれば、しぶしぶ仕方なく周りを気にしながら従う者など反応は様々だろうが、「多くの人は言う事を聞くだろう」との算段の上で発信されている。