「精子を凍結保存しておきますか?」ーーがん治療後に2人目を授かった男性がん患者が描く、自分と家族の「これから」
2016年夏、もともとあった脳転移が再び悪化。さらに、がん性髄膜炎を発症した。がん性髄膜炎とは、脳や脊髄を包む髄膜にがん細胞が広がった状態である。治療法が確立しておらず、予後が悪いケースが多い。 死を覚悟してエンディングノートを書いた。 「今度こそ自分の人生、終わりかなと思っていました。薬が効いてない。薬を変えなきゃいけないと。それで、『新しい薬が承認されたから、それをやりましょう』ということになったんです」 2014年7月に承認された薬・オプジーボ(2015年12月に肺がんへ適応拡大)は、がん細胞を直接攻撃するのではなく、がん細胞によって抑制された免疫が正しく働くようにする薬だ。 「効く人にはものすごく効くという話を聞いていました。脳転移のある人に試して効いたという知見はありませんでしたが、可能性はあるからすぐやりましょうと」
2016年12月に投与を開始。2カ月後の検査で腫瘍マーカーが基準値内に下がり、脳や髄膜に散らばっていたがんがCT画像上はすべて消失した。医師も驚く展開だった。 「ひょっとしたら生きられるかもしれないと思いました。地獄から天国に行ったような、超ジェットコースターですよね。命を拾ってくれた薬に、感謝しかありません」
がん治療と生殖医療の連携
生きる意欲を取り戻したとき、精子を凍結保存していたことを思い出した。妻は35歳になろうとしていた。「もう一人いたほうがよくない?」と提案した。 「『大丈夫なの?』と言われました。『おれは大丈夫だよ』って。この先も生きることができるという、妙な確信があったんですよ。もともと子どもは2人以上欲しいよねと話していたので、妻も『そうだね、もう一人いたほうがいいね』と言ってくれました」 2018年11月に次男が誕生した。今は「日常生活がきらきらしている感じ」と言う。 「子どもが成人するまでは生きたいと思うようになった自分がいます。そのためには稼がないといけないとか、ふつうの44歳が抱える悩みがようやく出てきているところです」