「精子を凍結保存しておきますか?」ーーがん治療後に2人目を授かった男性がん患者が描く、自分と家族の「これから」
肺がんに罹患した清水公一さん(44)は、抗がん剤治療が始まる前に精子凍結保存をおこない、のちに次男を授かった。がん治療によって妊孕性(妊娠するために必要な能力)がダメージを受けても将来子どもが持てるようにする取り組みは以前からなされているが、「肺がんでの精子凍結はまだ少ない」(清水さん)という。清水さんはどのような経緯で精子を凍結保存することになったのか。専門家に注意点も聞いた。(ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
長男が生まれた矢先にがんが見つかる
清水公一さんは、千葉県佐倉市で社会保険労務士事務所を営んでいる。事務所の名は「Cancer Work-Life Balance」。がん患者の支援に特化した事務所だ。清水さん自身、35歳で肺がんに罹患し、翌年ステージIVに進行した。 2012年にがんが発覚。長男が誕生して2カ月半だった。以降、毎年のように転移を繰り返した。手術療法、抗がん剤治療、放射線治療の三大治療に加え、新薬「オプジーボ」による免疫療法と、「がん治療のフルコース」を経験した。 話しながら時折、コンコンと浅い咳をする。肺がんの後遺症だ。がんが脳と脊髄に転移した影響で、視神経にも障がいが残った。「世界を見ると、よく星が飛んでいます」(清水さん) 現在は、がんの兆候がない状態(寛解)を保っている。妻と9歳になる長男、3歳の次男の4人暮らし。次男が生まれたのは一連のがん治療のあとだ。検査により抗がん剤で妊孕性を失ったことがわかったが、凍結保存しておいた精子を使って顕微授精をし、妻は妊娠した。 「治療中は、先のことを考えてもどうにも答えが出ませんでした。死んだら何もできないじゃないですか。それが、『これからも生きていける』に変わったときに、『もう一人欲しい』と思いました。生きていれば仕事はできる、子育てはなんとかなると思ったんです」
肺から副腎、脳へ転移
小児を含む若いがん患者への治療が進み、がんサバイバーが増えた。同時に、若いがん患者が将来子どもを持てるように、生殖能力を温存する医療(妊孕性温存療法)がなされるようになってきた。 しかし、清水さんによれば、「若い人が多くかかる血液がんなどに比べれば、肺がんでの妊孕性温存はまだ少ない」という。 肺がんが見つかったのは2012年11月だった。生命保険会社への転職を控え、入社前の健康診断で肺がんの疑いを指摘されたのがきっかけだった。 入社早々休職。腫瘍の切除手術を受け、術後の病理検査で「ステージIB」と診断された。ステージIはがん細胞の転移のない状態を指す。 2013年2月に仕事復帰、新しい職場での事実上の仕事はじめになった。 その年の夏、左の副腎への遠隔転移が見つかった。がんの進行度は一気に「ステージIV」になった。当時、肺がんステージIVの5年生存率は5%を切っていた。「最初の診断のときよりショックが大きかった」(清水さん) 再び手術を受け、副腎を摘出。しかし翌月、右手に力が入らなくなり、数日後に靴ひもが結べなくなった。緊急で受診すると、脳に3~4センチ大の腫瘍が見つかった。肺がんによる転移性の脳腫瘍だった。即、入院になった。