産後うつ サポート活動をする女性の壮絶体験
10人に1人が経験するという産後うつ。2017年度、国は予防の検診費用の助成を始めた。産後2週間と1カ月の2回、事業を導入する自治体で多くの人が無料で受けられるという。こうした対策がなかった頃に産後うつに苦しみ、産後の母親たちを支援する側になった女性に話を聞いた。(取材・文/なかのかおり) いっぱいいっぱいのママへ。頑張らなくてもすごいんだよ…心を軽くする絵本
赤ちゃんと対面、感情がわかなかった
10代の長男がいる40代のAさんは、産後うつをこじらせてうつ病に苦しんだ。その経験を生かして同じ悩みを持つ母親たちのサポートグループを始め、産後うつについて知ってもらう講師もしている。 Aさんは結婚する前、学校の先生をしていた。夫の転勤で地元を離れ、引っ越し先でパートの仕事を見つけた。妊娠中に切迫早産で入院し、仕事を辞めざるを得なかった。 出産は里帰り。実家近くの病院で緊急の帝王切開になった。Aさんは目が覚めて新生児室に行ったが、長男を見て何の感情もわかなかった。「自分は母性がないんじゃないか、人間失格なんじゃないか。こうした思いは人に言えないと感情に蓋をしました」 。夫はすぐに帰ってしまい、助産師にも言えない。食事中にいきなり号泣しても、誰も声をかけてこなかった。
1日に何回も泣けてくる
Aさんのような反応は、産後によくある話と思われていたのかもしれない。足がパンパンにむくみ、看護師に訴えても受け流された。「相談しても無駄なんだ」と植え付けられた。1日に何回も、きっかけなく泣けてくる。「息子の体重を測っても増えていないし、母乳も飲んでいなさそうだし、助産師に頑張ってと言われる。ミルクを足す提案もなく、育児って過酷だな、どうしようと思ってまた泣きました」。 退院して1ヵ月は実家にいた。元気がなくても心配されなかった。親は、洗濯や沐浴など一般的な手助けはしてくれた。無理やり、長男をかわいいと思うようにした。 自宅に帰ると、夫がベビーベッドやいろいろな物を買い揃えていた。Aさんは喜ぶ夫に合わせていたが、本心は沈んでいた。その気持ちも言えなかった。 夫は朝早くから夜遅くまで仕事のためワンオペ育児で、知り合いもいない。孤独感が迫ってきた。