映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」 3人のゲストによる座談会
映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」の公開を祝して、シトウレイ、ドリアン・ロロブリジーダ、四千頭身の都築拓紀という異色の3人が、ファッション界の革命児 ガリアーノについて語り合った。その破天荒なクリエイションと、天才ならではの危うさとは? 【画像】事件から13年後のジョン・ガリアーノ
映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」とは 「クリスチャン・ディオール(Christian Dior、現ディオール)」のデザイナーとして活躍していたジョン・ガリアーノ(John Galliano)が、そのキャリアの絶頂期だった2011年2月、反ユダヤ主義的暴言で逮捕され、ブランドから解雇された。彼はなぜ自ら、その華やかなキャリアを捨てることになったのか――事件から13年が経った今、本人がカメラの前で洗いざらい話す。アカデミー賞を受賞した名匠ケヴィン・マクドナルド(Kevin Macdonald)監督が、彼の栄光と転落、贖罪と復帰に迫った、美しくもスキャンダラスなドキュメンタリー。9月20日公開。
ガリアーノに影響を受けていないドラァグクイーンはいない
FASHIONSNAP(以下、F):本作の試写会に参加し、さまざまな思いを抱いたという御三方に集まっていただきました。みなさん今日が「初めまして」ですか? 一同:そうなんです。 ドリアン・ロロブリジーダ(以下、ドリアン):この顔ぶれはなかなかの異種格闘技戦。派手なドリカムみたいね。 シトウレイ(以下、シトウ):おもしろ過ぎて絶対引き受ける案件(笑)。 都築拓紀(以下、都築):オファーが来たとき、笑っちゃいました。今日はよろしくお願いします。 F:まずは簡単な自己紹介とガリアーノにまつわるエピソードをお願いします。 シトウ:シトウレイです。ストリートスナップのカメラマンとジャーナリストと、ほかにもいろいろやっています。ガリアーノの思い出というと、2011年の事件(※クリスチャン・ディオールのデザイナーとして活躍していたガリアーノが、パリのカフェで隣同士になったカップルに反ユダヤ主義的暴言を吐いて逮捕された)のときに私、パリでストリートスナップを撮っていたんです。現場に警察がいて、周辺ではガリアーノ擁護派と「やっぱりやらかすと思った派」が一緒にいるからピリピリしていて、もう一触即発!みたいな厳戒態勢でした。 都築:すげえ。「やっぱりやらかすと思った派」がいたんだ(笑)。 シトウ:ディオールのショーの最後はいつもガリアーノ本人が出てきて、一番盛り上がるんです。「イエー、ガリアーノだー!」みたいな。でもそのときは、白衣を着たクチュリエさんたちがお辞儀をして終わって、みんなガリアーノを見に来ているから「この感情をどうしたらいいんだ……(困惑)」みたいな感じだったのを覚えています。 F:では次にドリアンさん、お願いします。今日もゴージャスな衣装ですね。 ドリアン:ドリアン・ロロブリジーダです。私はドラァグクイーンとしてデビューした当時、「世の中にはどんなファッションがあるんだろう?」と、まず「モードェモード(MODE et MODE、パリ・オートクチュールと世界主要都市のプレタポルテを紹介する雑誌)」を読み漁っていたんです。そこでどうしたって目につくのはガリアーノのディオール。ガリアーノに影響を受けていないドラァグクイーンはいないんじゃないか、と個人的には思っています。 F:ガリアーノのスタイルを真似したりもしましたか? ドリアン:あのスペクタクルを取り入れるのはなかなか難しいんですが、楽屋では「今日の私、ガリアーノっぽくない?」などというやり取りは沢山ありました。最近だと「マルジェラメイク(※メゾン マルジェラ2024年アーティザナルコレクションで発表され、話題となった陶器肌のメイクアップ)」をするクイーンがいたり。ドラァグクイーンの中には文化服装学院出身の人もたくさんいますし、みんな好きなジャンルなので、ファッションの話題は日常的に出てきますね。「ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)がまた誰か殴ったらしいわよ!」とか。 一同:(笑) F:都築さんはストリートスナップの常連で、マルジェラのコレクターとしても知られています。 都築:芸人をやっています、四千頭身の都築拓紀です。僕は世代的にも、ガリアーノからがっつり影響を受けていたわけではないんです。映画の冒頭でも「商業的な売り上げには繋がらない」というエピソードがあったとおり、ガリアーノの作品はあまり“着られる服”ではないという印象。だから“着る側”の自分としてはそんなにアイテムを持っていなくて。もちろんあの事件とか大きいポイントは知っていたんですけど、細かな背景は今回の映画で初めて知れた感じでした。 都築:シトウさんは事件の後、日本に帰ってきて友達とガリアーノについて話をしたりしたんですか? シトウ:私はその頃ストリートスナップをやっていて、原宿ではガリアーノをだれも知らなくて「だれとこの話をすればいいんだろう?」みたいな感じでした。 ドリアン:2丁目に来てくれたら良かったのに! 一同:(笑) シトウ:当時は「ガリアーノは差別主義者だ」と言う人と「ガリアーノははめられた」と言う人がいたんです。あの被害者が実は俳優だったとか、全部仕組まれたとかいううわさがあって。ガリアーノを排斥するために「事件を起こした」ということにしたと。 ドリアン:そんな陰謀論みたいな説が!?