運賃交渉すれば“村八分”にされる? 荷主を過剰に気遣う中小運送の社長たち、本当に守るべきは誰なのか?
しがらみを超えた経営者の覚悟
人はひとりでは生きていけない。普通に生活していれば、多かれ少なかれ何らかの人間関係が生まれ、それにともなうしがらみも発生する。それは経営者にも当てはまる。 B社長に筆者が伝えた通り、そしてD氏が不満に感じたように、 「荷主ではなく、まず従業員のことを考えるべきだ」 という意見は正論だろう。C社長の場合、人がよいことが裏目に出たのか、それとも単に気が弱く、交渉に向いていないだけなのか。それとも、従業員よりも荷主の気持ちを優先しているのか、そんな可能性も考えられる。 だが、先に行われた国土交通省の運賃交渉調査によると、13人にひとりの運送会社社長が運賃交渉を行わないとされており、そのような社長にあたったドライバーや従業員にとっては、非常に迷惑な話だろう。 繰り返しになるが、運送会社が経営を健全化するには、運賃値上げ交渉を避けることはできない。そして、企業にとって社長は最大の権力を持ち、従業員が幸せになるかどうかは 「社長の手腕」 次第だ。もし、社長が荷主や地域社会とのしがらみに縛られて運賃交渉に消極的であれば、それは大きな問題だ。 ちなみに、本稿執筆にあたり、B社長と久しぶりに連絡を取った。荷主も苦しんでいるから、運賃交渉はしづらいといっていたB社長は、今ではこういっていた。 「今は、断られたら取引がなくなっても仕方ないという覚悟で運賃値上げ交渉を行い、結果も出ています。やはり、従業員のほうが大切ですから」 しがらみという“呪縛”を乗り越え、社長としての優先順位を間違えないB社長のような経営者が増えることを、筆者は期待したい。
坂田良平(物流ジャーナリスト)