祭りの舞台、コミュニティーの中心…宗教施設も壊滅、長い再建への道 能登半島地震の被災調査から考えた、行政の支援のあり方とは
石川県輪島市の徳善寺(浄土真宗東本願寺派)の住職、佱元昌延(のりもと・しょうえん)さん(70)は、能登半島地震で全壊した本堂や自宅から荷物の搬出に追われていた。近くの仮の拠点に移るためだ。 【写真】遺体はどんどん増えていく…葬祭関係者の知られざる奮闘 2人に化粧を施すと、遺族が泣きながら「かわいくしてもらったね。よかったね」
納骨堂も崩れてしまい、移動させる骨つぼ約150個に読経をした。寺の代わりに火葬場でお経を上げ、仮設住宅などで法要をすることが増えた。佱元さんはこうこぼす。「普段通りの法要をしてあげたい」。仏壇を処分する際にお経を上げてほしいといった声も多く、避難先の金沢市から通う。 被災地は、寺や神社が多いことで知られる。有名な祭りや伝統行事の舞台として、地元の生活に深く根を張ったコミュニティーの中心だ。元日の激震では住宅同様、こうした宗教施設の多くが壊滅的な被害を受けた。再建には莫大な費用がかかる。石川県が描く支援のあり方を探ってみた。(共同通信=河添結日、小林清美) ▽寄付で耐震補強工事、本堂にいた妻は助かった 「ここから妻がはい出してきた。助かったのは奇跡的でした」。石川県珠洲市の日蓮宗本住寺。倒壊した本堂を、住職の大句哲正(だいく・てっしょう)さん(70)が指さした。 1月1日午後4時10分、激しい揺れで立っていられなくなった。はいつくばると、目の前で本堂が土煙を上げて崩れていった。妻は本堂の中にいたが、自力で脱出した。墓石も倒れ、骨つぼから骨が見えたので、ブルーシートで覆った。
珠洲市は昨年5月にも最大震度6強の地震があり、本住寺は鐘楼堂が倒壊、本堂が傾いた。クラウドファンディングや地域住民からの寄付で資金を工面し、昨年末に耐震補強を終えたばかりだった。 「1月の地震は、補強でどうにかなるレベルの揺れではなかった。それでも工事しておいたおかげで隙間ができ、妻が助かったと思っている」。本堂が崩れ、中にいた人が亡くなった寺もあったという。 本住寺は、珠洲市で震度6弱だった2022年6月の地震でも被災している。「こう続くと、さすがに心が折れそうになる」。3回の被災の中でも、今回の被害は最も厳しい。 ▽調査で分かった宗教施設の被害状況 被災地は寺社の多さで知られる。北陸地方は室町時代、浄土真宗中興の祖・蓮如が布教したことで「真宗王国」とも言われる。巨大灯籠が練り歩く「キリコ祭り」など、宗教施設は地域の文化や歴史を継承するコミュニティーの拠点だった。 共同通信は6月、能登半島地震による宗教施設の被災状況を調査した。石川県に20以上の宗教法人がある8団体から聞き取りをした。対象は石川県神社庁、真宗大谷派、曹洞宗、浄土真宗本願寺派、天理教、日蓮宗、高野山真言宗、浄土宗。個々の寺や神社などが一つの宗教法人となっている場合も多いため、この調査手法にした。