分譲開始から37年後にイオンが…千葉県佐倉市のニュータウン「ユーカリが丘」はなぜオールドタウン化しないのか?
■ 異例中の異例、運輸省が難色を示した 最寄りのユーカリが丘駅からは、京成電鉄を利用して東京都心まで50分ほどかかる。普通のデベロッパーが分譲していれば、その住民たちは市営のバスや乗用車などで駅にアクセスし、そこから電車通勤することになるが、山万は住宅エリア内を循環するモノレール(自動案内軌条式旅客輸送システム/AGT)「山万ユーカリが丘線」を自前で敷設し、駅から各住戸への利便性を向上させた。 デベロッパーがモノレールという鉄道を持つことは異例中の異例だ。敷設にあたっては当時の運輸省が難色を示したというが、82年の開業以来、人身事故もなく住民の足として定着している。 また、当初は佐倉市が市営バスを運行する意向を示したが、環境問題を理由に山万はこの申し出を断ったという。 そのうえでモノレールの補助交通機能として、早稲田大学や昭和飛行機工業などと共同で日本初の非接触充電型電気コミュニティバス「ここらら号」の運行も開始している(2020年より「こあらバス」に移行)。売り切り型の開発なら、そもそも交通網を整備することなど思いもつかないだろう。山万の街づくりにかける本気度がうかがえる。 山万の街づくりは環境への配慮を大きなテーマにしており、近年では街中に電気自動車やバイク用の給電スタンドを設置し、電気自動車のカーシェアリングにも早くから取り組んでいるほか、分譲する戸建て住宅に太陽光発電パネルを実装している。
■ 一度は街を出た子が、家族を持って帰ってくる 老若男女みんなが楽しめる街にするのが彼らの目的だ。人生にはいろいろなステージがあって、そのステージごとに住みたい家、環境は変わってくるはずだ。こうしたニーズに対して山万は、「ハッピーサークルシステム」というシステムを採用する。 戸建て住宅からエリア内の老人養護施設に移り住む高齢者の家を買い取り、リニューアルしたうえで若い世代に再販売することで、街の中でライフサイクルが起こる仕組みだ。その結果、この街で育って社会人になり、一度は街を出た子どもたちが、家族を持って再び街に帰ってくるようになったという。世代をまたいで同じ街に暮らせるシステムを自ら築くのが、ユーカリが丘で山万が実施しているタウンマネジメントなのだ。 千葉県佐倉市と言えば、都心居住が進んだ結果、都内への通勤圏としては残念ながら、今では「限界立地」とも言えるところになっている。現に佐倉市自体はここ数年で人口が減少に向かう地区が増え始め、大規模金融緩和後、同じ千葉県内の市川市や流山市、船橋市などの地価が上昇基調を強めているなかでも地価動向はさえない。 だが、山万ではそんな状況を顧みず、人が暮らす住宅を単純な「資産価値」でとらえずに、住宅街としての「利用価値」「住み心地」を重視し、街の新陳代謝を自ら仕掛けることで持続可能性を追求している。 当初は、山万がこうした街づくりを行っていることを、多くのデベロッパーは批判的に見るか、「変わったことをやる会社」程度にしか評価していなかったという。 「トレンド」だとサステナビリティ(持続可能性)を今さら掲げる大手デベロッパーとは、そもそもの価値観からして異なることを強烈に体現している街づくりと言えるだろう。
牧野 知弘