教員は夏休みでも全く休めない――学校から地域指導に移行する「部活動」の本当に解決すべき課題
夏休みになっても全く休むことができず、部活動のために自らの時間を犠牲にする教員たち。SNSで発信される彼らの本音に、校則や部活動問題を研究する名古屋大学大学院教授の内田良さんは強い危機感を抱いている。2023年度から部活動指導の地域移行が始まるが、状況はどのように変わるのか。内田さんに、教員や子どもたちを取り巻く環境、地域との関わりなど部活動の課題について聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
「自分の時間も家庭も犠牲にしている」部活動の負担に苦しむ教員たち
――内田さんは部活動に対する教員の負担や現場の状況をどのように感じていますか。 内田良: 部活動は、子どもたちの長時間の練習に加えて、教員の長時間の負担がここ数年問題になってきています。 これまで部活動は、平日夜遅くまで、土日もやるのが当たり前で、練習日数が増えるなど過熱の一途でした。ずっとみんなそうやってきたし、むしろそうやってきたことで盛り上がってきて、この数十年で練習日数も増えてきたという経緯があるんですね。みんなすごく部活が好きなんだなと思っていたのですが、教員から匿名で発信される本音は全く違って「しんどい」と漏らす教員がたくさんいたんです。 学校に行って話を聞いても、先生たちから「部活をやりたくない」という声は聞けません。みなさん「子どものために頑張りたい」と答えます。お金や時間に関係なく、遅くまで頑張る。部活の顧問をやって当たり前で、それが一人前の教員。学校にはそういう教員間の同調圧力というか、文化が根強くあるんです。 しかし、SNSだと匿名で発信できるので、しんどさを抱えた教員の声が次々に上がるようになりました。教員たちは本当は苦しんでいる。そういった声が上がってきたことで、しんどいという声を上げられないまま、部活が過熱してきた現状が見えてきました。 ――SNSではどんな声が上がっているのでしょう。 内田良: 「土日は休ませて」といった声ですね。先生だって自分のために時間を使いたいし、お子さんがいるなら子どもと一緒に遊びたい。自分自身は部活指導に行って、よそ様の子どもを見ているんですから。SNSでの発信を見て「先生だって一人の人間なんだ」ってことを改めて感じました。 あと、僕が衝撃を受けたのは、夏休みに試合で負けてしまい「負けて良かった。明日から休める」って、先生が思わず言ってしまったというもの。負けて悔しがっている子どもの姿を見て、先生が嬉しいわけがないじゃないですか。なのに、思わず負けて良かったって思ってしまう。先生たちは相当追い込まれているなって感じましたし、これは末期症状だなと思いましたね。 ――どうしてそこまで追い込まれてしまうのでしょうか。 内田良: 例えば、運動部の部活で練習を頑張って試合に勝てたとしましょう。勝って嫌な思いをする人はいないので保護者からも喜びの声が届きます。保護者からありがとうと言われると、先生たちは「やっぱり頑張って良かったな」ってなるんです。 でも、一度勝ったからといって次勝たなくていい、とはならない。次に向けて頑張って、また頑張って…ということを繰り返すことになる。そして、また保護者から感謝されると、さらに頑張ってしまう。特に若い先生は、そういう状況に巻き込まれやすいんですよね。 結局は、学校の部活動は先生たちの善意に任されているんです。学校からも保護者からもお願いされたら、先生たちは子どもたちのために頑張ろうってなる。先生は当然子どもたちのことが好きだから、「しんどかったけど一生懸命やって良かった」って、無理やりにでも納得してきた。でも、実際は先生たちが時間や家庭を犠牲にしたうえで部活が成り立ってきたんです。 ただ、今はそういった状況が見える化されてきた。最初は、先生だけが苦しいと声を上げていたんですけど、次第に保護者たちからも「先生苦しいよね。そこまで部活を頑張らなくてもいいよ」という声が上がるようになりました。部活動の問題に対する世論の広がりを感じますね。