「福島12市町村」が舞台の豪華キャストによる異色ドラマ『風のふく島』。制作の裏側を青野Pが語る
題材、脚本、監督のマッチングの妙を感じた回
――題材と脚本、監督のマッチングはどのように進めたのですか。 青野P:すごく悩みながらですが、その話のテイストに合う人は誰だろうという感じで決めていきました。第1話は王道のエンタメにしたかったので、『君は放課後インソムニア』などの池田千尋さんがいいなとか、第3話の自分語り回は演劇チックなので、脚本家を劇団「コンプソンズ」の金子鈴幸さんにお願いしたり、第4話のバスの擬人化回はPOPなコメディにしたかったので、YouTubeチャンネル「マリマリマリー」を手掛ける放送作家の深見シンジさんにお願いして、監督は住田さんで、と。 ――1話ごとに明確にイメージされた上でスタッフメーキングされているんですね。イメージがはまったことを特に実感した回はありますか? 青野P:(ダブルブッキング)川元文太さんには第7話の葛尾村の「ほぼ二人の会話劇」の他に、第12話の大熊町の話の演出も担当していただいたんですが、後者は母親の影響で「人の役に立たないと存在価値がない」と思い込んだ女性が主人公なので、脚本だけ読むと暗い回なんです。でも、私は周囲の登場人物たちの演出でコメディにしたかった。自分では悲劇のヒーロー・ヒロインだと思っている人も、人生には手を差し伸べてくれた人が一人もいませんでしたか? という思いで。 そこで川元さんに依頼して、現場で演技指導をしてもらったら、スタッフに「脚本で読んだイメージと全然違いました」と言ってもらえてうれしかったです。 ――予想を超えてきた回はありましたか。 青野P:第9話の富岡町の話は青木柚くん主演ですが、彼のお父さん役が怒髪天(ロックバンド)の増子(直純)さんで、青木柚くんの師匠となる教授役が飴屋法水さん(現代美術家、演出家)なんですよ。ティム・バートン風の「父と息子のダークファンタジー」というコンセプトで奇妙さを狙ってキャスティングしたんですが、お三方とも真面目に演技しているのに、掛け合わせが想像以上にだいぶ面白いんですよ(笑)。 ――青野さんはもともとナイロン100℃やケラリーノ・サンドロヴィッチ演出作など演劇の制作ご出身だそうですが、演劇界から新しい才能を発掘しようと意識されているところはありますか? 青野P:そうですね、演劇界から面白い方々をピックアップしたいという思いはあります。今回脚本で入っている金子鈴幸くん(第3・12話)や石黒麻衣さん(第8・11話)も演劇の方で、面白いなと思ってアサインしました。 また、浪江町の回(第4話)はダウ90000の吉原怜那さんをキャスティングしていますし、ミュージシャンもいれば芸人もいるみたいな幅広いキャスティングになっていますので、そのあたりも注目していただけると嬉しいです。 ◇続く後編【「福島12市町村」が舞台の異色ドラマ『風のふく島』。あえて「復興を直球で描く作品」にしなかった理由】では、福島12市町村をテーマにしながらも、あえて「復興を直球で描くドラマ」にしなかった理由について、さらに深く話を聞いた。
田幸 和歌子(フリーランスライター)