オフィスで長時間働くことは美徳なのか 労働者としての幸せはどこに?
トリクルダウンが起きないクラウドソーシングに未来はあるか
一方で、労働者側における働き方の変革でいま話題になっているのが、「クラウドソーシング」と呼ばれるサービスです。これは今の時代の“内職”に相当するもので、クラウドソーシングサービス事業者が運営するウェブサイトに登録し、公募される仕事に応募して成果物を納品することで、対価として発注者が設定した費用が支払われる仕組み。自宅にいながら、少しの時間でお金を稼ぐことができる手段として、また手に職を持つクリエイターやエンジニアの新しいワークスタイルとして、専業主婦やフリーランスを中心に拡大していると言われています。 しかしながら、昨今このクラウドソーシングには大きな課題が潜んでいます。それは、労働者に支払われる対価が、労働内容に対して著しく低いというものです。例えば、大手クラウドソーシングサービスのサイトに掲載されている仕事依頼を参照してみると、原稿執筆に関する仕事は500文字程度から2000文字程度までの原稿執筆に対して、設定されている単価は2000円前後。案件によっては500文字の原稿に対して数百円というものまで掲載されています。発注者は法人だけでなく個人のアフィリエイターなども含まれているため一概には評価できませんが、いずれにしても原稿を書くことは決して簡単ではありません。熟考やリサーチをしっかりすれば数時間かかる場合もあります。それでこのような単価では、果たして労働対価として適切だと言えるでしょうか。
加えて、それぞれの仕事は、依頼主がどのような企業や個人なのか、作成した原稿がどのようなサイトに掲載されるのか(どのように使われるのか)は、サイト上では明確にされていない場合が多いというのも課題ではないでしょうか。追って発注者から詳しい情報が開示されるのかもしれませんが、多くの場合それは作業に応募してから明かされるため、事前の確認はできません。こうした説明不足も、果たして労働者に対して適切だと言えるのでしょうか。 こうした不透明で労働者にとって厳しい条件の背景には、クラウドソーシングが、発注する企業側を強く意識したものになっているのではないかというのが、筆者の考えです。つまり、クラウドソーシングは企業がニーズに適した労働力を「安く」「大量に」「一時的に」確保できるプラットフォームであるということ。それが市場拡大の大きな要因になっているのではないかということです。 しかし、そこに本当に労働者の幸せが生まれているのかは、疑問を持たざるを得ません。矢野経済研究所の試算では、クラウドソーシングは2020年に2950億円市場にまで成長すると言われていますが、これは企業とクラウドソーシングサービス企業の間のビジネスであって、クラウド労働者に支払われる対価ではありません。ここにトリクルダウンが生まれていないことが、今後さらに大きな問題になるのではないでしょうか。 仕事を依頼する企業と仕事をする労働者の間にどのような関係を構築することが、お互いにとって利益のあるエコシステムを生み出すことになるのか。そのために、プラットフォームを提供するクラウドソーシングサービス企業はどのようなルール作りをしなければならないのか。クラウドソーシングを巡って生まれている様々な課題や問題点を洗い出し、議論を深めていく必要があると言えるでしょう。