「世界一幸福な国」フィンランドを支えてきた「国防」の力…大統領が語る、穏やかなイメージの背景にある現実
フィンランド国民を守るシェルター内部の様子
広大なシェルター内を歩くと、空気がひんやりとしているのがわかる。 ヘルシンキ市救助局のコミュニケーション・スペシャリスト、ニナ・ヤルヴェンキュラ氏は、「ここでは、有事の際には6000人ほどを収容できます。住民だけでなく旅行者でも外国人でも分け隔てなく受け入れます」と話す。 平時ではそのシェルターのスペースは民間企業に貸し出されており、スポーツジムやホッケーなどに使える広いコートになっていた。 国外からの脅威に対するこうした備えが、フィンランド人の心の安寧に寄与している。国の安定には国防意識による準備が欠かせないことをフィンランドから学ぶことができるだろう。 すぐ隣のロシアからミサイルが飛んでくるかもしれない不安に対して、国民はシェルターなどの設備を整えることで安心感をもてる。翻って、北朝鮮から頻繁にミサイルが飛んでくる日本にはどのような備えができているのだろうか。 ミサイルが発射されると、けたたましく全国瞬時警報システム(Jアラート)などが鳴り響き、「建物の中、又は地下に避難してください」と呼びかけられているが、住民はどこに逃げればいいのだろうか。公共シェルターの設置や放射能対策のヨウ素剤の備蓄などについては国が具体的に議論している様子はない。 「シェルターがあることで、生活において安全さを感じることができる」と、集合住宅の住民代表のオヤラ氏は言う。 フィンランドと違い、日本には「平和」憲法が存在する。専守防衛で、日本は戦力をもたないことで平和を維持しようとしてきたが、「幸せの国」フィンランドでは、そんな日本の防衛や安全保障へのアプローチをどう見るのだろうか。 ■日本の平和憲法についてストゥブ大統領が語ったこと ストゥブ大統領にそれをぶつけてみた。「(日本の)国際関係論の外交・安全保障政策に関する考えは、第二次世界大戦の経験に根ざしていると思います。ですから、比較するならドイツと日本を比較すべきでしょう。良くも悪くも両国は第二次大戦後の驚くべきサクセスストーリーだと思います。日本には平和憲法があり、同時にアメリカからの国家の安全を保障してもらえる。かなりバランスが取れていると思う」 筆者はさらに、フィンランド軍の軍事演習に参加した後に、基地内でフィンランド陸軍司令官のマッティ・ホンコ大佐とゆっくり話す機会があった。そこで、国防の現場にいる司令官に同じ質問をぶつけてみた。「日本には平和憲法があるが」と問うと、ベルギーの首都ブリュッセルのNATO本部で勤務経験があるホンコ大佐はこう答えた。「フィンランドに同じような平和憲法があれば、フィンランド軍は国を守れない可能性がある」 今回の取材では、ムーミンやサンタクロースなど穏やかなキャラクターを産んできたフィンランドで、その世界一幸せな暮らしを国防が支えていることがよくわかった。もちろん、大統領の言うように、日本とフィンランドの歴史の違いを鑑みれば、単純に比較するのは賢明ではない。だが少なくとも、日本にとっては、フィンランドが国民に与える幸福度とそれを支える包括的安全保障政策から学べることはあるだろう。日本に対して好意的な国でもあるフィンランドを、日本政府ももっと注目すべきかもしれない。