ドラッグストア“全国2万店超”なおも乱立のなぜ? 「最高裁判所」が深く関わっている“意外な理由”
最高裁が薬局の距離制限を「違憲」とした理由は? 歴史がその「正しさ」を証明
裁判所が規制の憲法適合性を判断する場合、規制の「目的」と、その目的を達成するための「手段」とに分けて審査を行う。本件でも、もちろん最高裁はこの手法をとった。 まず、薬局の距離制限の目的について、改正法の経緯や薬事法という法律全体の趣旨を根拠として、「不良医薬品の供給の危険」「医薬品の乱売や乱用」の防止にあると認定した。なお、このような国民の生命・健康や公共の安全を守る規制は「警察目的の規制」(消極目的の規制)とよばれる。 被告の広島県側の主張は、「薬局の乱立」が「薬局等の過当競争、経営の不安定化」を招き、それにより「不良医薬品の供給の危険」「医薬品の乱売や乱用」を招くというものだった。 しかし、最高裁はそのような論理を認めなかった。目的を達成するための「手段」として、「距離制限」をおくことが合理的でなく、必要な手段でもないと判示した。 その背景には、「①人権侵害の危険防止」、「②裁判所の審査能力」という2つの理由がある。 まず、「①人権侵害の危険防止」について。「警察目的の規制」を行う場合には、営業の自由、つまり、職業を選択して営む自由を侵害しないよう、目的達成の手段は最小限度に抑えなければならないという考え方である。ちなみにこれを「警察比例の原則」という。 次に、「②裁判所の審査能力」について。警察目的の規制が最小限度かどうかの判断については、「経済的弱者の保護」などの社会経済政策と比べて政治的・政策的な判断の必要性が低いので、裁判所が踏み込んだ判断をしてよいという視点である。 後者については説明を要するだろう。経済的弱者の保護などを目的とする規制は「積極目的の規制」とよばれる。この場合、目的を達成するためどのような手段を講じるべきかについては、国民生活全体を見渡した政策的・技術的な判断が必要となる。したがって、裁判所は国会の立法裁量を尊重すべきとされる。 これに対し、「警察目的の規制」についてはそのような要請が少ないので、人権救済のために裁判所が踏み込んだ判断をしてよいという考え方となる。 裁判所は、「不良医薬品の供給の危険」「医薬品の乱売や乱用」という目的は、医薬品の製造・貯蔵・販売に関する厳しい規制や、違反した場合の刑事上・行政上のペナルティなどによって実現できるとした。そして、薬局の開設に距離制限まで課すことは過度の制約だとした。 最高裁判決から50年近く経った今日、ドラッグストアを含む薬局の数はコンビニよりも多い。「乱立」といってもいい状態だが、なお増え続けている。そして、この現状からは「不良医薬品の供給の危険」「医薬品の乱売や乱用」の懸念は感じられない。 単に薬局・ドラッグストアの数が増えて競争が激化するだけでは「国民の生命・健康の安全」が害されるという問題は生じない。最高裁の判決の正しさを歴史が証明したといえる。