原因不明の発声障害、歌えない「地獄」と10年以上向き合った先に T-BOLAN森友嵐士の絶望と再生
なぜそのように強い心を持ち続けることができたのか。そう問うと、森友は笑った。 「強さなのかな? ううん、弱さじゃないですか。僕はライブで、究極の喜びの瞬間を体験しているわけです。あの喜びがない人生に、別の方向へ歩いていく勇気がなかった。恋愛みたいなもので、『別れたくない!』って駄々をこねて。僕からステージを奪わないでくれ、そのためには何でもやるよ、という感じだったと思う」 久しぶりにレコーディングスタジオに戻った時には、「自分を浦島太郎のように感じた」。 「Macで? 音が絵で見えるの、びっくり。マルチ何もないの、みたいな(笑)。レコーディングもそうだし、音楽の届け方もガラリと変わっていたから、最初は戸惑いましたけど、仕方がないよね。でもやっぱり僕らレコード世代はCDが好きだし、できれば歌詞カードを見ながら最初から一曲ずつ聴いてほしいと思う」 歌を取り戻した今は、他の人の音楽を受け入れられるようになった。ボーカロイドや、アニメーション表現と組み合わせた楽曲が主流の現代の音楽シーンを、冷静に眺めていられるという。 「僕はわりと無機質な感じよりも血液が流れているような表現が好きですけど、もちろんいろんな音楽があっていい。それぞれに、喜ぶ人がいるわけだから。受け取る色は、みんな違うよね。それでいいと思う」
また再発したら……そんな不安に駆られることはないのだろうか。 「取り戻してないんですよ、新しく作っただけ。パッションとしては、だいぶ近寄ったとは思いますけどね。でも歌い方は間違いなく違う。だから、不安ね……ゼロではないけど、くるならこいという感じだよね。でも次は発表するし、みんなの力を借りる。周りに頼ります。もう一人で闘わないと決めてる。前は、一人でやってたから。それが、僕の弱さ。人を信じてなかったよね。今のほうが信じる力は強い。だから大丈夫だと思ってる。30周年を迎えた今、こうやってまたツアーを回れる現実があること、とにかく、ファンに対する感謝ですよ。20年もほったらかしておいて、前触れなく突然帰ってきて、飯でも行こうぜって声かけたら、OK!いま支度するわ、って来てくれる感じ。アルバムは、ありがとうの証しです」 かつて森友を奮い立たせた長男は、大人の階段を上りつつある。彼は、今どのように父親を見ているのだろう。