4000万円超えも! 6人の時計ジャーナリストが思わずうなった珠玉の腕時計とは?
3. 並木浩一/ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル ユール フローラル スリジエ ウォッチ」
この腕時計の文字盤上に針はない。その代わりそれぞれ5弁の花びらを持つつぼみが1時間ごとに開いては閉じていく数で、時(アワー)を示す。それも単純に増減するのではなく、閉じる花と開く花を変え、正しい数が咲く。位置は一定ではなく、今日の午前5時と午後5時、明日の午前5時では花が咲く場所は異なるのである。 誰も思いつかなかった、“超・花時計” では、独自に開発したモジュールにより12の花々それぞれが独立して開閉するメカニズムに連結している。分もケースサイドの小窓に表示される正確な腕時計は、腕時計であること遥かに超越した存在意義がある。 一つひとつ手作業でミニアチュールペインティングされた花は美しい。すべて微細な筆先で仕上げていき、同じものは存在しないその花々を文字盤上でローズゴールド、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ピンクサファイア、イエロー&ホワイトのダイヤモンド、ホワイトマザー・オブ・パールが彩る。そのまま美術館が展示していいレベルのアートピースであるから、着けた人間は“ ウォーキング・ミュージアム” なのだ。ヴァン クリーフ&アーペルの「ポエティック コンプリケーション」を完璧に体現した、まさに複雑機構で描いた詩情である。 「レディ」と冠してはいるが、男女を問うレベルを完全超越した傑作腕時計であるし、18Kローズゴールドケースの直径も38㎜あり、ジェンダーを問う理由がない。 モデル名の「スリジエ」というのは桜のことだ。その花で一年を想い、その花の散るさまに生涯を重ねる国民の感性に刺さる、決して散らない“桜時計” でもある。
4. 篠田哲生/オリス「プロパイロット X カーミット エディション」
我々の人生は、原子の周波数を使った超高精度時計で定められた「標準時」に支配されている。たいていの場合、腕時計を見るのは時間に追われる状況であり、それは楽しい気分とは言い難い。 そもそも時間は太陽の動きから導き出されたもの。ある種の自然現象でもあり、生活に優しく寄り添うものであったはず。であるなら腕時計を眺める時ぐらいは、せめて笑顔でいたい。 オリス「プロパイロットX カーミット エディション」は、時間や腕時計との付き合い方を変えてくれる。ダイヤルカラーはディズニーマペッツで人気のカエル「カーミット」の体色である黄緑色。これだけ華やかで遊び心のあるコンセプトの時計に、しかめっ面は似合わない。そしてカレンダーディスクにはカーミットが潜んでおり、なにかと憂鬱な月始まりである1日になると、笑顔のカーミットが表れる。そんな時計を見て、タイトなスケジュールにカリカリすることなどできないだろう。「プロパイロットX カーミット エディション」は、流れていく時間を楽しむためのものなのだ。 しかしその一方で、時計そのものは非常にまじめにつくられている。ケースやブレスレットは加工が難しいチタン製で、エッジをきれいに出すことで39㎜径のコンパクトなケースながら存在感がある。そして搭載する自社開発ムーブメント「Cal.400」は、高精度、高耐磁、5日間のパワーリザーブというハイスペックを備える。 非常に優れた実用性をもちつつも、カラーやコンセプトで腕時計を遊ぶ。時間との付き合い方に対するオリスの軽やかな姿勢は、ぜひ見習いたいものだ。