4000万円超えも! 6人の時計ジャーナリストが思わずうなった珠玉の腕時計とは?
四半世紀以上にわたりスイスでの取材を続けるなど、これまで数多くの時計を見てきた時計ジャーナリストたち。そんな彼らが近年で思わずうなった珠玉の一本をそれぞれ挙げてもらった。 【写真を見る】4000万円超えの“針のない”時計も! 時計ジャーナリストたちがうなった6本を一挙紹介
1. 広田雅将/ルイ・ヴィトンの「タンブール」
2023年に発表されたルイ・ヴィトンの「タンブール」は、そう言って差し支えなければ、予想もできないような時計だった。前作に比べて文字盤はぐっとシンプルになり、売りになるはずのインターチェンジャブルストラップは廃され、ムーブメントはマイクロローター式の自動巻きに改められた。つまりはいきなり「ツウ好み」になったわけだ。 時計としてのあり方をガラッと変えられたのは、パッケージングに自信があればこそ、だろう。そもそも樽形のケースを持つタンブールは時計部分の重心が低い。加えてケースが薄くなり、適切な重さのブレスレットを合わせることで、装着感はより改善された。またブレスレットのコマは、現行品としては珍しく、左右にあえて遊びを持たせたものだ。 正直、よいブレスレットをつくるにはかなりの知見がいる。遊びの少ないブレスは一見高級そうだが、装着感はよくないし、長く使うとガタも出る。対してルイ・ヴィトンは、あえて遊びを持たせることで、きわめて優れた着け心地をもたらした。褒めすぎかもしれないが、今風の硬い着け心地を好まない人ならば、間違いなく気に入るはずだ。 文字盤の仕上げも良好である。同じ色を使い、しかし下地の処理だけで色を変えてみせるテクニックは、文字盤にノウハウを持つルイ・ヴィトンならではだ。もっと強い色も似合いそうだが、あえてトーンを抑えたのは、普通の人にも手に取ってほしいためか。 ルイ・ヴィトンという名前がなくとも、名だたる傑作と勝負できる新型「タンブール」。ルイ・ヴィトンなんてと思う人にこそ、触ってほしい時計だ。
2. 髙木教雄/パルミジャーニ・フルリエ「トリック プティ・セコンド」
このモデルの登場には、布石があった。2021年に登場した「トンダPF」である。この新コレクションを初めて目にした時、時計関係者は戸惑ったはずだ。私も、その例外ではない。なぜなら、植字のアワーインデックスが極端に短く、時針から遠く離れ、大きな隙間が生じていたからだ。これは既存の時計デザインの定石から逸脱している。視認性を高めるためには、針とインデックスを極力近づけるのが常識。しかし「トンダPF」は、短い時インデックスによって大きく広がった余白を、ローズエンジンによる複雑なバーリーコーンギョーシェの美しさを主役とするステージとしてみせたのだ。 そしてこの「トリック プティ・セコンド」も、同じく極端に短い植字インデックスを用い、余白を広げている。そのステージを華やぐのは、酒石英と塩、銀を脱塩水に混ぜたペーストをブラシでていねいに撫でつけた古式ゆかしき本物のグレイン仕上げ。その上質なマット感は、ダイヤルの主役としてまさにふさわしい。「なるほど、次はこう来たか」と初見で思わずうなった。 搭載するのは、新開発の手巻きというのも、このダイヤルにマッチする。そのブリッジと地板は18金製。そして地板はブラスト仕上げとし、ブリッジには菱形の凹凸が連なるコート・ド・フルリエを施し、あでやかなコントラストを織り成してみせたのも見事である。 さらにヌバック調に加工したアリゲーターを、縫い目を飛ばしたサルトリアルステッチで仕立てたストラップも、カラーリングも含め実にスタイリッシュだ。 一分の隙もない新たなクラシックウォッチの名作を、パルミジャーニ・フルリエはつくり上げた。