親子の会話は難しい…「言いかえ」を工夫して、高齢の親との会話をスムーズに進めるコツ
言葉だけでなく表情や声のトーンで感謝を表現
帰省するたびに実家にモノがたまっていて、「このままではゴミ屋敷になるのでは」と案じてしまう。それで思わず、「部屋が散らかっているよ。ちゃんと片づけないとダメじゃない」と言ってしまうが、これではNGだ。 ここは、「片づけ、一緒にやろうか」と一声かけるのが正解と、萩原さん。 親は、「自分のことを心配してくれた」「気遣ってくれた」と受け取り、片づけに前向きになるかもしれない。少なくともこう言われて、うれしく思わない親はいない。 ところで、親とのコミュニケーションは、なにも言葉のやりとりだけにとどまらない。表情や身ぶり・手振りといった「非言語コミュニケーション」も、話す内容と同じくらい大事な要素となる。 例えば、実家に行った際に親から食事をいただいたとする。「おいしいね」という言葉も、そっけない言い方か、明るく肯定的な言い方かで、親の受けとり方も変わってくる。上の片づけでの例でも、辛気臭いよりは、ポジティブさが顔に出ているほうが、断然いい。 萩原さんは、感謝の気持ちを伝えるなら、「表情や声のトーンにも感謝の心を乗せましょう」と力説する。そうした、ほんのちょっとの心がけで、親はうれしく感じるものである。
親の「心理的な背景を理解」する
本書は、親からの言葉に対し、子どもとしてどう返答すべきかについても触れている。 例えば、「孫にも会いたいから、もっと頻繁に会いに来てよ」と投げかけられたひと言。 実家は遠いし、多忙でそうもいかないという場合、どう切り返すべきだろうか? 萩原さんは、「少し仕事が忙しくて。5月は時間ができるから、その時に会えたらうれしいな」といった感じで返すようすすめる。ポイントとなるのは、「YES/NOで返答しない」こと。つまり、「当面無理だなぁ」とはっきりとは言わず、事情があってしばらくは行けないと言うにとどめる。それなら、親としてもすんなり納得がいきやすい。 コツは、「親の言葉にある心理的な背景を理解」すること。親は、単にわがままで言っているのではなく、子どもや孫に会えてないから寂しいという心情を察すれば、自然と親を思いやる言い方になるはずである。 また、萩原さんは、子どもが「看取者(かんしゅしゃ)」になりきることが、親とのコミュニケーションで「最重要」であるとも書いている。ここでいう看取者とは、「一歩引いたところから、親の様子を観察し、適切な対処・コミュニケーションに努めること」を意味する。この視点を持つことで寛容な気持ちも生まれ、親との交流もストレスが減り、居心地のいいものになるという。 * * * 本書では、この記事で取り上げた数例を含め、80もの伝え方の良い例・悪い例の解説がなされている。親との関係を、会話を糸口にして実りのあるものにしたい方には、必読の1冊と言えそうだ。 【今日の暮らしに役立つ1冊】 『歳をとった親とうまく話せる言いかえノート』 萩原礼紀著 定価1650円 ダイヤモンド社 文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagramに掲載している。
サライ.jp