イチロー“引退興行”の誤解
またイチローのスタメン起用に関してだが、基本、メジャーリーグに忖度はない。過去にサッカー界では日本人プレーヤーの欧州移籍の際にスポンサーがバックにいて、その出場に対しても忖度が行われるケースがないわけではなかったが、そういう忖度や差別的起用に対して厳しい目のあるアメリカのプロスポーツでは、徹底した実力主義が貫かれている。その実力主義をあいまいにしないために、代理人が権利を主張して、あらゆる契約で縛られているわけだ。 イチローはオープン戦で24打席ノーヒットの大不振のまま20日の開幕戦に「9番・ライト」でスタメン起用された。 「エンジンがかかってきた。打ってくれると思う」と、前日の会見でサービス監督は語っていた。もちろんイチローの引退は知っていて、「シアトル・マリナーズの組織として(起用に)意義がある」と、偉大なるレジェンドに対するリスペクトの意味をこめて、スタメン起用したが、そこにはメジャー3089本を打ってきたイチローの潜在能力への期待もあった。特別に28人枠に拡大される東京での2試合のロースター復帰については契約にあったようだが、試合出場までが契約にあったわけではない。 イチローは「2打席限定」でヒットを打てないまま交代。その試合後、サービス監督は「明日も使うが、スタメンがどうかわからない」と語っていたが、蓋をあければ翌日も、スタメンで使い、前日のような「2打席」ではなく「4打席」立たせた。 実は、その開幕戦では一塁のボーゲルバックが、左肘に死球を受けて、翌日の第2戦に出場することができなかった。外野と一塁兼用のジェイ・ブルースを一塁で起用したが、もしもの事態に備えてベンチに人を置いておかねばならないという事情もあった。この日は、イチローがフル出場するチーム事情があったのである。あの感動的な試合と、真夜中の会見でイチロー節が炸裂したため、それらの事情は、すべて忘れ去られてしまったが、「客寄せの引退興行」あるいは、「公式戦を引退興行に使って失礼」の指摘は、的外れである。そもそも、マリナーズは、この開幕カードで2連勝したのである。 アスレチックスは、遠くアジアの地まで来て敗れたが、ビジネス的には旨味を得てマリナーズはイチローの引退を劇的に演出してチームの“株”を上げ、しかも2連勝した。興行権を買った読売新聞社も含めて、誰もが“ウインウイン”の東京ドームでの開幕2連戦だったのである。 ちなみに関係者の間では早くも「次は大谷翔平を公式戦に呼べないか」との話も飛び交っている。そもそも、今回、エンゼルス招聘案もあったが、大谷の手術と同時にメキシコ系オーナーのアルトゥーロ・モレノ氏が、メキシコでの公式戦を選択したという事情もあったという。