虫屋が狙うチョウ「オオイチモンジ」とは? 本州では採集禁止だが…
ビーパルOB・宮川 勉が、40歳前後で目覚めた「昆虫採集」の楽しみをご紹介。今回は7月の北海道へ最初にオオイチモンジ採集にでかけたときの悔しいエピソードをご紹介します。初心者必読です! 【写真9枚】オオイチモンジのほか、コムラサキ、ミヤマカラスアゲハ、シータテハなど、北海道の林道で見つけた蝶を写真で見る
虫屋になって最初に追いかけたチョウ
さて、オオイチモンジです。 40歳を超えて、目覚めた昆虫採集。 そして7月。早めの夏休みに出かけたのは、北海道の某林道でした。 オオイチモンジという褐色に白い一文字模様が描かれた大型美麗蝶です。 当時の記録ノートを読むと、いかにその夏、私はオオイチモンジに翻弄されていたか、がわかります。 そしてまた、林道で出会う虫屋と呼ばれる人たちとの出会いを詳しく記しています。 虫の生態もさることながら、虫屋の生態もこれまた私にとっては新鮮な感動でした。 (自分もまた虫屋界のとば口に片足を突っ込んでいるのですが……)
軽トラでやってきた虫屋のおじさん
クルマを林道の路肩に置いて、オオイチモンジを探していると、林道の向こうから軽トラが埃をあげて突進して来て、目の前で急停車した。 ドアが勢い良く開いて、大きいネットを持ったおじさんが、飛び出してきた。そして私のすぐ脇で一心不乱に網を降り始めたのだ。 どうやらお目当てのチョウを追ってきたようだ。 おじさんが一息ついたところで、声を掛けてみた。 「こんにちは。蝶ですか」 「ええ」 おじさんはこちらをふりむかず、視線は今捕り逃したチョウの行方を追っている。 おじさんは、長袖シャツに帽子、長靴、そして手拭いという正装で、腰に「三角紙入れ」まで下げている。捕ったチョウは三角紙に納めるのだが、それを重ねて保管するケースが「三角紙入れ」というもので、ベルトに装着するようになっている。そして手にしたネットの汚れは長年の歴戦のあとを物語っていた。 「何を狙ってるんです?」 「ダチョウです」 おじさんはただそう言い残して、目は宙に浮かせたまま、運転席に乗り入れ、去っていった。ついにちらりともこちらを見なかった。 ダチョウとは駄蝶のことだろう。特に珍しくもないチョウという意味だろう。しかし私はその後、この言葉を聞いたことがないので、おじさんの造語なのかもしれない。 私もこの林道でのダチョウ採集は満喫していた。 図鑑でしか見たことのないチョウが優雅に舞っているのを見て、内省的になって、本当の幸せとは何かに思いを馳せた。 オオイチモンジだけは影すら見ていないが、やはり羽化には早すぎたのだろう。 今年はもうあきらめよう。 (追記)と、ここでまっすぐに帰ったら「いい夏休みがとれた!」でよかったのに……