虫屋が狙うチョウ「オオイチモンジ」とは? 本州では採集禁止だが…
飛行場への帰り道でもついつい林道へ
早めに林道を切り上げので、空港到着の時間までにだいぶ余裕があった。 そこでもうひと振りしようかと、空港近くの道中で、別の林道へ入ってみた。 このあたりも同じ山系なのだが、ほとんど低地に近い。渓流沿いの林道で、行き当たりは温泉施設があるようだ。しかし網を降ってみたが、珍しい虫の収穫はほとんどなし。
オオイチモンジ?
ここもあきらめて、また林道を戻ることにした。 と、シートに腰を下ろして前の道を見ると、大きな黒いチョウがアスファルトにいるのが見える。 心臓が高鳴る。ゆっくりとクルマで近づく。 チョウの影が徐々にはっきりとしてくる。 獣糞に大型のチョウが留まって吸汁している。 オオイチモンジではないか! 間違いない! 初めて見るオオイチモンジは帝王の風格で、悠揚迫らざる様子で獣糞にストローを突き立てている。 クルマをだいぶ手前で停め、静かに降り、そうっとチョウの背後から近づいて行った。 蝶の視力は、想像以上に良いのを私は知っている。蝶が体の向きを変えると、それにあわせてこちらも移動する。 ようやく網で捕れる距離に近づき、ふわりと静かにネットをおろす。 そしてついにネットに入れた。 驚き暴れるオオイチモンジ。こちらのアドレナリンも全開。 しかしさて、問題はここからだ。 今私は右手で竿の柄を持ち、左手でネット先端を摘んでいる。なぜならネットの下には新鮮で柔らかいうんちがある。 暴れるオオイチモンジの胸をどう押さえ、しかもネットも汚さない方法はないか、思案のしどころなのだ。 その時だ。向こうからトラックがやってきた。 心を落ち着かせようとしつつも、トラックのスピードはかなり速い。あわあわしたその瞬間、わずかにネットと地面に隙間ができた。 「あっ」 隙間から逃げ出すチョウ。 遠くの林まで一気に飛んでいく。 トラックが容赦なく、私の鼻先を通り抜ける。 悔しくて悔しくて涙が出そうになる。