【追悼】東京地検特捜部元検事・堀田力弁護士が語った「ロッキード事件」捜査秘話 「捜査はどこまでいくのか、いつやるのか」田中元総理逮捕の1か月前に掛かってきた電話の主は… 平成事件史(21)
檜山会長の供述により、1972年8月に檜山が東京・目白の田中邸を訪問し、航空機トライスター売り込みの請託をした際に、田中元総理が「よっしゃ、よっしゃ」と了承していたことも明らかになった。5億円のワイロ授受の構図が浮かび上がり、捜査は大きく前進した。 ■「クラーク検事はほとんど泣いていた」 東京地検特捜部が田中逮捕の着手日を決定したのは、逮捕のわずか4日前だった。 情報はマスコミにも永田町にも漏れることなく、厳重に管理されていたのだ。 そして、その運命の日が、近づく。 7月23日(金) 特捜部は「Xデー」を7月27日と定め、田中逮捕に向けて水面下で具体的な準備を始める。 7月24日(土) 「検察首脳会議」において、田中元総理を外為法違反で逮捕する方針が正式に確認される。 同時に、最高裁判所はコーチャンらの「刑事免責」を保証することを決定。これにより、逮捕への障害はすべて取り払われた。 7月26日(月) 検察は法務省を通じて田中元総理逮捕の方針を、稲葉法務大臣に報告。 三木総理と共に真相究明を推し進めていた中曽根派の稲葉は「指揮権発動」による「逮捕阻止」はせず、逮捕を了承した。稲葉とほぼ同時に三木総理にも伝えられた。 7月27日(火) 「Xデー」到来。 午前6時半、東京・目白。松田検事と特捜部資料課長らが田中邸に向かい、田中角栄元総理大臣を東京地検に任意同行した上で、外為法違反の疑いで逮捕した。 (後に外為法と受託収賄罪で起訴)日本政治史に前例のない瞬間だった。 ロスにいた堀田検事は、吉永検事からの電話で逮捕の一報を受けた。 「これから田中を逮捕する。松田検事が田中宅に入った」 日本時間午前6時半。ロスではまだ前日の午後2時半。 堀田検事はすぐさま、捜査に協力してくれた司法省のクラーク検事に電話を入れた。 「ほんとうに田中を逮捕するのか」と尋ねるクラーク検事に、堀田検事は「ほんとうに逮捕するんだ」と告げた。 「クラーク検事はほとんど泣いていた。よくここまでやったと」(堀田)
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