AI生成の報道コンテンツに懸念、ニュース離れ加速
英オックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所(Reuters Institute for the Study of Journalism)がこのほどまとめた年次リポート「Digital News Report 2024」によると、報道機関のニュース制作におけるAI(人工知能)の活用に対する懸念が世界的に高まっている。 ■ 大半がAI制作のニュースに抵抗感 米グーグルや米オープンAIといったテクノロジー企業が、情報を要約し、ニュースサイトからのトラフィックを奪うことができるツールを開発するなか、ニュースメディアは生成AIという新たな技術への対応に迫られている。 しかし、こうした新技術をむやみに活用することは、報道機関にとって死活問題となりそうだ。リポートによると、消費者はAIによるニュースコンテンツに疑念を抱いている。米国人の52%、英国人の63%が、主にAIで制作されたニュースに抵抗があると回答した。特に政治や戦争のような慎重を要するトピックについては不安感が強いという。 この調査は、世界47カ国の約9万5000人を対象に行われた。1カ国当たり約2000人が対象者で、これには日本も含まれる。 ロイター・ジャーナリズム研究所のシニアリサーチ・アソシエイトで、同リポートの責任著者であるニック・ニューマン氏は、「人々がAIに対してこれほどまでに懐疑的であることに驚いた」とコメントした。「多くの人は、AIがコンテンツの信頼性に及ぼす影響について不安を抱いている」(同) その一方で、ジャーナリストにとっては朗報もあるようだ。例えば文字起こしや翻訳など、仕事を効率化するための「裏方」作業でのAI活用については好意的に受け止められている。
■ 選挙特需もニュース離れは加速中 このリポートでは、世界的にニュース離れが進んでいる実態も明らかになった。ニュースを「憂うつ/絶え間なく続く/退屈だ」と感じる人が増えている。調査対象となった世界の人々のうち、39%が「時々または頻繁にニュースを選択的に避けている」と回答した。これは2017年の29%から増加している。リポートは、ウクライナや中東での戦争が人々のニュース離れに拍車をかけている可能性があると指摘する。 米国などの一部の国では選挙がニュースへの関心を高めている。しかし世界的に見るとニュース離れの傾向は続いている。世界全体で、ニュースに「とても/極めて、関心がある」と答えた人は 46%だった。これは17年の 63%から減少している。英国では15年以降、ニュースへの関心がほぼ半減した。 「ここ数年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)があり、戦争のニュースも続いている。人々がニュースから離れるのは、精神衛生上の窮状を回避するためであり、ある程度自然な反応だ」(ニューマン氏)という。つまり、心の安定を求める行為であり、これを誰も否定できないということのようだ。 ■ TikTok、ニュース媒体で台頭 Twitter上回る リポートによると、テレビや新聞などの伝統的な媒体の利用者数は過去10年間で急減している。特に若い世代はオンラインメディアやソーシャルメディアでニュースに接することを好む傾向にある。 英国では、ニュースを入手する手段としてオンラインが73%を占め、テレビは50%、プリント(印刷物)はわずか14%だった。日本は、オンラインが58%、テレビは53%、プリントが21%となった。 ソーシャルメディアのニュースプラットフォームとしての重要性が増しているようだ。依然として「Facebook」が重視されているが、長期的に見ると減少傾向にある。 「YouTube」や「WhatsApp」も依然として多くの人にとって重要なニュースソースだが、最近は中国発の「TikTok」が台頭している。TikTokをニュースメディアとして利用している人は13%で、今回初めてX(旧Twitter、10%)を上回った。18~24歳の若年層ではTikTokの利用率はさらに高く、23%に達した。
小久保 重信