なぜ強い? J1再開後首位守る川崎フロンターレの破竹5連勝裏に小林悠の変貌あり
目の前には敵味方を合わせて、実に8人もの選手がペナルティーエリア内で競り合おうとしていた。密集を避ける形で大外にポジションを取った自分も、ベガルタ仙台のMF椎橋慧也に密着マークされている。それでも川崎フロンターレのFW小林悠は、確信に近い閃きを感じていた。 「(大島)僚太がクロスを上げた瞬間にここまで流れてくる、という準備はできていました」 敵地ユアテックスタジアム仙台に乗り込んだ22日の明治安田生命J1リーグ第6節。2-2で迎えた後半23分に決まった小林の豪快なボレー弾が、前半に許した2点のビハインドをはね返しての3-2の逆転勝利と再開後の破竹の5連勝、そして開幕から5勝1分けと無傷での首位キープを導いた。 決勝点は右ショートコーナーから生まれた。MF大島僚太からFW家長昭博、大島、DF山根視来、再び大島と短いパスを繋いでベガルタを揺さぶる。そして、ペナルティーエリアの右角あたりから大島が共有した高速クロスがベガルタの5人、フロンターレの3人の頭上を飛び越えていく。 自分のところに来る、という確信していた小林は相手ゴール前へ詰めながら急停止。椎橋との間にわずかな隙間を作り、左手で椎橋を押さえながら身体を浮かせる。クロスの落ち際を右足の甲で完璧にとらえた一撃は、低く鋭い弾道と化してベガルタゴールを射抜いた。 「ゴールも近かったので慌てずにしっかりとミートして、枠に飛ばせば入ると思っていました」
逆転への狼煙を上げたのも小林だった。今シーズン6試合目で初めてリードを、しかも2点も許す前半をリザーブで見届けて迎えたハーフタイム。レアンドロ・ダミアンに代わる3トップの中央で、後半開始とともに投入すると鬼木達監督から告げられた瞬間に、小林は自らに使命を課した。 「自分が試合に出ることでチームを蘇らせるというか、自分が出ただけでゴールが入るんじゃないか、という空気に変えたかった。メンタルの部分でも貢献しようと思ってピッチに入りました」 前半の2失点は不用意にボールを失うカウンターから生まれていた。ベガルタの狙いがわかっていたからこそ、リスクを冒したパスワークが影を潜める展開に陥った。 負傷したFW長谷川竜也を前半終了間際にMF三笘薫に代えていた鬼木監督は、小林ととともに旗手怜央をインサイドハーフの脇坂泰斗に代えて投入。同時に家長を右ウイングからインサイドハーフに回したことで、後半に臨む3トップは左から三笘、小林、旗手と先発がすべて代わっていた。 「(三笘)薫と(旗手)怜央が背後を取ってくれて、クロスや前への推進力が出たと思う」 筑波大から加入した三笘、順天堂大学の旗手と2人の大卒ルーキーの積極性が前半のチームを変えたと歓迎した小林は、後半13分に1点差に迫るゴールを決めている。右サイドを深くえぐった旗手が上げたクロスをベガルタのセンターバック、平岡康裕と吉野恭平の間へ巧みに入り込んで完璧なタイミングでヘディングを一閃。狙った通りにゴール左隅に突き刺した。 「昨年に自分のなかでつかんだものがあって。クロスが上がったときにしっかりとフリーになれているし、シュートを打つときにも落ち着いて、コースを狙って決められている」