経済再生「しくじりすぎ」の日本、世界の流れに乗るため「改革必須」の2つの領域とは
対日投資より大切な「ある変化」
もちろん、対日投資は1つのきっかけ(触媒)に過ぎない。これを起爆剤として確かな成長軌道に乗せるためには、大きなモメンタム(連鎖の広がり)を生みだす努力が求められる。既述のとおり、油断するとわずかなショックで再び低位均衡へ滑り落ちるからだ。 AIなどデジタル化の新展開はさまざまな可能性を広げている。イノベーション時代の経済成長で重要なのは生産性の向上だが、生産性の定義式(産出/投入)で分母を最小化することよりも、分子の産出を最大化する取り組みが欠かせない。 民泊、ライドシェア、フィンテックなど、これまでできなかった事業活動に踏み出し、新たな付加価値を生み出す領域にこそ無限の可能性が広がるからだ。日本はその領域に一歩を踏み出すまで時間を要し、踏み出した後も小刻みで勢いに欠ける面がある。 その根因には制度の見直し問題がありそうだ。ここでいう制度とは、法律や規制などのフォーマルなルールに限らず、業界慣行や雇用慣行などインフォーマルな制約を含む広義の概念だ。技術は日進月歩で伸張し、それを受けて新ビジネスの機会も高まるが、広義の制度変化が遅れると成果を取り逃すことになりかねない(図表2)。
制度見直しが「絶対必須」の2つの領域
デジタル化の恩恵(Digital Dividends)が得られるのは、ICT-enabled BusinessとICT-producing Businessの2つのフロンティアだ(図表3)。したがって、制度の見直しはこの両面で欠かせない。 対日投資が活発化する半導体やデータセンターは後者の領域だが、忘れてならないのは、デジタル化が可能にする前者の新領域だ。この新領域の重要性は、2000~2001年の「日米同時IT不況」で見られた日米経済の比較分析から得られる貴重な教訓だ(篠﨑 [2003])。 ITバブル崩壊後、日米経済はともに景気後退局面に入ったが、その性格は両国でかなり異なっていたのだ。米国のIT不況は、ICT-enabled Businessが拡げた新領域で起きた攻めの企業行動に起因する。それがバブルを招き、弾けたことで景気後退に陥ったのだ。 一方、攻めの企業行動が乏しかった日本は、半導体や電子機器の生産など、米国の動きから派生したICT-producing Businessの多重発注に起因する在庫・生産調整という受け身の性格が強かった。 当時の「日米同時IT不況」における両国経済の本質的な違いは、その後のデジタル経済において、今日に至る展開の大差に繋がったと言えるだろう。