経済再生「しくじりすぎ」の日本、世界の流れに乗るため「改革必須」の2つの領域とは
日本の成長戦略が「しくじった」ワケ
ただし、ビッグ・プッシュで注意しなければならないのは、流れに身を委ねていれば、何の努力もなく高い成長軌道に乗れるわけではないことだ。これは、過去に取り組まれてきた数々の「成長戦略」がうまく起動しなかったことからも明らかだ。 図表1が示すように、「大きなひと押し」で低成長から高成長への転換点となるB点は、本質的に不安定だ。いったんはB点を超えても、わずかなショックで再び低位均衡のA点へ滑り落ちる懸念がある。これは、援助や補助金でしばしば見られる現象だ。 援助や補助金をきっかけに自律的な発展に向けた努力が積み重ねられると、高い均衡のC点に向けて成長軌道に乗れるが、そうした努力がなければ、援助や補助金の完了と同時に運営が行き詰まり、再び低い均衡に滑り落ちてしまう。投資の累積は廃墟の山と化すのだ。
なぜ対日投資はアベノミクスの「代わり」になり得る?
その意味では、台湾のTSMCによる熊本工場新設やグーグル、マイクロソフトなどによるデータセンターの建設は、竣工後の自律的な事業運営がおろそかになりがちな官需の公共事業ではない。綿密な将来の収支予想に基づき、リスクを冷徹に判断した民需の企業投資が中核を成している。 半導体工場の誘致では巨額の財政資金も投じられているが、これはアベノミクスの「3本の矢」の中で、うまく放たれなかった第2(機動的な財政政策)と第3(民間投資を喚起する成長戦略)の矢に代わる役割と見ることもできる(第1の矢は大胆な金融政策)。 対日投資については、以前から「優れた経営資源の流入」という効果も論じられてきた(小宮・天野 [1972]、篠﨑ほか [1998])。実際、高付加価値を生む外国企業は能力に応じた高賃金をグローバル基準で提示する傾向があり、周辺地域の賃金に波及する動きも見られる。 また、TSMCの「受託生産」は、発注元との取引関係で、日本型の「下請け生産」とは異なる性格を擁している。不当な値引きを排し、デフレ脱却に向けた公正取引を浸透させる点でも、業界慣行に一石を投じる新規性が期待できる。 外国企業の対日投資が「大きなひと押し」となって、デフレ脱却の好循環につながれば、日本経済を再起動する触媒の役割を果たすと考えられるのだ。