2024年「時計界のアカデミー賞」で国内注目ブランドも受賞! カギとなるのは「ローテク」!? 時計界の未来はどうなる?
●「ローテクさ」こそ、時計の魅力
今回のGPHGの受賞作の中で、この大塚ローテック「6号」は、時計の未来を象徴しているものはない。このモデルこそ、そしてブランド名の「ローテック」こそ、これからの時計にとって何よりも大切なキーワードだ。筆者はそう思う。
昔、1つのビル全体ほどの大きさだった大型コンピュータ。その何百倍、何千倍、何万倍も処理能力を持つチップを内蔵し、世界中の情報を瞬時に検索&抽出したり、プロカメラマンも驚く画像処理を瞬時に行ってキレイな写真や動画を記録・編集したりなど、あらゆることが簡単に行うことができるスマートフォンを日々持ち歩き、使っている私たちが時計に惹かれる理由。 それは時計がそれとは正反対のローテクな、アナログな機械だから。ハイテクを使わず、ローテクで機能を実現する、そこに私たちは魅了されるのだ。 今年の「金の針賞」を受賞したIWCのセキュラーカレンダー搭載のポルトギーゼが魅力的なのも、数百個もの歯車やバネの組み合わせというローテクで、あの素晴らしい機能を実現しているからだ。スマートフォンのアプリを使えばあの機能は簡単に実現できる。でも、そうしない。 現代の時計作りでは、CAD/CAMソフトや、その設計図通りにナノメートル(10億分の1メートル=100万分の1㎜)レベルで素材を加工できるコンピュータ制御の工作機械が使われている。また素材も、宇宙工学分野で使われている最先端のものが採用されている。つまり、作るために最先端のハイテクを使っているのだが、最終的に完成するものはローテクなもの。つまり時計は「最先端のハイテクを使って作る、最先端のローテク」。 わたしたちはその「ローテクさ」に心惹かれるのだ。だから高級な時計はこれからも「ローテック」であり続ける。受賞作「6号」を生み出した「大塚ローテック」の社名は、まさにこの「今後の時計のあり方」を見事に表現している。片山次朗氏は、だから「ローテック」という言葉を社名につけたのだと思う。 今回のGPHG受賞作には、この「6号」に通じる受賞作がもうひとつある。それが「小さな針賞」を受賞した、ドイツ・フランクフルト出身の独立時計師ステファン・クドケ氏が2007年に創立したKUDOKE(クドケ)の「3 サーモン」だ。クドケ氏は、ムーブメントから文字盤まで、手作りや伝統的な手法により自ら作ることで、中でも手作業によるエングレービングで知られる。 文字盤の半分がサーモンカラーのこのモデルは、ブルースチール製の長い分針が文字盤を1周する過程で、文字盤上半分の窓で、長さの違う3本の針が交互に現れて時を表示する。これも究極のローテクモデルといえるだろう。