2024年「時計界のアカデミー賞」で国内注目ブランドも受賞! カギとなるのは「ローテク」!? 時計界の未来はどうなる?
ショパールがジュエリーウォッチ賞、エコイノベーション賞の2賞を受賞したこと。復活したダニエル・ロートがトゥールビヨン賞を、ピアジェがアイコニックウォッチ賞を受賞したことも妥当なところだろう。 時計業界に貢献したレジェンドを表彰する「Special Jury賞」が、フランク ミュラーの「トノウ カーベックス」を筆頭に、数々の傑作ケースを創造した伝説のケースメーカー職人であるピエール・ハグマン氏に贈られたのも、至極妥当なところだ。 また、惜しくも受賞できなかったノミネートモデルもどれも魅力的で、興味のある方は英語かフランス語だかGPHGの公式サイトをチェックしてほしい。
●注目したい受賞作No.1は、大塚ローテック「6号」
さて、2024年のGPHGで一番意義深い、注目したい受賞作は何か。それは3000フラン以下の時計に贈られる「チャレンジウォッチ賞」を日本の時計として初受賞した、マイクロメゾン(というか独立時計師)ブランド・大塚ローテックの「6号」(英文表記はNo.6)だ。
もともとはカーデザイナー、プロダクトデザイナーで時計製作に興味を抱いた片山次朗(かたやま・じろう)氏が、インターネット・オークションで卓上旋盤を購入したのをきっかけに、独学でオリジナル時計の製作に挑戦。2012年にスタートさせた個人ブランド。現在は独立時計師協会に所属する浅岡肇(あさおか・はじめ)氏が設立した東京都系精密株式会社に所属して時計作りに取り組んでいる。 片山氏は先日、厚生労働省の「令和6年度 現代の名工」に「時計組立・調整工」として選出されているし、受賞作の「6号」に続く「7.5号」は、国立科学博物館(科博)の理工学研究部の科学・技術史資料として保存されている。 残念ながらこれまで筆者は片山氏を取材したことはない。だが、少量生産されるその作品は、何年も前から時計愛好家の間では大きな話題になっていた。とにかく気になる存在だった。実は筆者のおじやいとこは、大田区で町工場を経営している職人で、子どもの頃はその工場にしょっちゅう出入りしていて、金属加工の機械には慣れ親しんでいたからだ。だから、大塚ローテックの時計やHPで紹介されるその製作現場が気になって仕方がなかった。 今回の「6号」は、時、分を、扇形のインジケータにレトログラード運針する時針、分針を同軸に配置。また文字盤中央下には秒を回転ディスクと窓で表示。さらに右側下に窓式のデイト表示を備えていて、MIYOTA製の自動巻きムーブメントで駆動する機械式モデル。そのフォルムは昔の工場で見た、オイルや空気を圧送するパイプの途中にセットされていた圧力計のよう。さ60分をかけて分針がそして12時間をかけて時針が左から右に動いていき、右端に到達すると瞬時にジャンプして左のゼロ位置に戻る。 すでに手に入れた同業者から実物を見せてもらったが、片山氏がオリジナルで書体を起こしたという文字盤の数字と漢字表記も、高度成長期に子どもだった筆者が出入りしていた親戚の町工場の工作機械に書かれていた数字や漢字を彷彿させる。このレトロ感がたまらなくいい。