「まるで宝石」──シチズンの高級時計カンパノラに新作登場。開発者が語るデビュー24年目の「原点回帰」
文字板は時計の「顔」。シチズンがデザインにこだわる理由
「漆による立体構造は20年以上の技術の積み重ねがある我々だからこそできること。他社が簡単に真似できるものではないと思います」(榎本氏) 榎本氏は自社の技術にこう自信を見せるが、同社がここまで文字板にこだわるのはなぜだろうか。 榎本氏は「文字板は時計の『顔』だからです。人々は基本的に文字板を見て時刻を知ります。文字板は買う際の大きな決め手になるのではないでしょうか」と持論を交えて話す。 今回のカンパノラシリーズでは、シチズン独自のエコ・ドライブモデルも展開している。 太陽光や室内の照明を動力源とするエコ・ドライブは、1976年の初代モデル登場以来、ソーラーセルの発電効率の向上と文字板デザインに試行錯誤してきた。 こうしたことを踏まえ、榎本氏は「われわれにはソーラー時計の市場を形成してきた自負もあります。いかに文字板を綺麗にするかという、文字板に対する開発者の思いもあります」と話す。 文字板デザインにとことんこだわる同社だけに、カンパノラシリーズにおける漆塗りへの思いも人一倍強い。 「(漆塗りは)これまでブランドを続けてこられた大きなファクターになっているのは間違いありません。 印刷した文字板とは違い、漆にしかない独特の表情、デザイン、奥行き、艶があります。カンパノラの世界観を表現するには重要な要素です」(榎本氏)
「特別な日に着用してほしい」イメージは女性のジュエリー着用
企画した市川氏によると、3モデルのターゲット層は30~40代の男性。ビジネスシーンの使用も可能だが、想定するのは「休日の特別な日に気合いを入れて使うようなイメージ」(市川氏)だ。 女性がドレスを着て、ジュエリーなど装飾品を身につけるイメージだという。 市川氏は「細部にもこだわっているので、まずは実物を隅々まで見てもらいたいです。3つのモデルが描く空を見てもらい、自分のインスピレーションに合うものを選んでほしいですね」と呼びかける。 デザインを担当した榎本氏は「3モデルそれぞれにデザイナーがいて、思いを込め、色や表現にも気を使っています。文字板の小さな面積にこれだけ漆の細工をするのも珍しく、一朝一夕では実現できない技術力とその裏にある数々の失敗にも思いを馳せながら、良さを体感してほしいです」と話した。 カンパノラシリーズは、来年2025年に誕生25周年を迎える。 技術力と工芸品としての美しさを兼ね備えたシリーズに、同社は25周年の節目にどのようなモデルを投入するのか。今後の動向に注目が集まりそうだ。
樋口隆充