マ軍がイチローと早期再契約を結んだ複雑な背景
ただ、「後ろにいるのは、オーナーのジェフリー・ローリアだ」と前出の記者は指摘する。 「仮にサムソンが、イチローを必要していないと考えても、ローリアが獲れ、といえば、イチローはジョーダンにもビートルズにでもなる」 スタントンのトレード拒否条項に関しても、「ローリアがつけてやれといえば、契約に加わる」。 そう考えれば、サムソン社長の朝令暮改も同情の余地はあるが、過去、こんなことがあったと聞いて、驚いた。 2012年の暮れ、彼は、元継父にあたるローリアからラジオ番組の出演、メディアとのインタビューを一時的とはいえ、一切禁じられたそう。さすがに、舌禍が過ぎたか。 一方でローリアも口を開けば、これまで、度々トラブルを招いてきただけに、マーリンズというチームは本当に分かりにくく、今回のイチローとの再契約にしても、今季終盤、本来内野手のデレク・デイトリッチを第4の外野手として育てようとしていただけに、少々首を傾げたくなったが、どうやらこんな事情があるよう。 「オズナをトレードしようとしているのだろう」と地元記者。 「彼の代理人のボラスとサムソン社長が相容れないことは、公然の秘密だ」。 センターのマーセル・オズナがフリーエージェントになるのは4年後。それまでマーリンズは保有権があるが、来季以降、オズナには調停権が発生するため、長期契約をしない限り、2人は毎年のように年俸交渉をしなければならない。かといって、マーリンズにオズナと長期契約を交わすつもりはない。 「若い投手を獲得できるなら、オズナのトレードで動くだろう」 オズナをトレードした場合、デイトリッチとイチローで外野の1枠をシェアする構想。であるなら、マーリンズにとってイチローは必要な存在だ。デイトリッチには守備の不安もある。 なるほど、マーリンズが今回、早い段階でイチローの残留に動いた背景には、そんな事情があるようだが、それにしてもサムソン社長も随分、大風呂敷を広げたものだ。過激さといい、大げさなリップサービスといい、ごたごたしたお家事情といい、まるでヤンキースのようなところがあるが、そんな感想を漏らすと地元記者は、笑いながらこう返している。 「スケールは、ちょっと小さいがな」 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)