マ軍がイチローと早期再契約を結んだ複雑な背景
「野球界にとって、大失敗だ。我々はいずれそれを知ることになる。誰もその金額に値しない。イチローのチームへの貢献はゼロだ。何もない。この契約はスポーツ界をダメにしてしまう。全くもってジョークだ。経営陣の完全なミスだ」 「マイケル・ジョーダンと一緒の時間を過ごしたことはないけれど、イチローと時間を共有するということは、そういうことではないか。日本でイチローといるということは、英国でビートルズと一緒にいるのと、同じことだろう」 耳を疑うが、いずれも同一人物、マーリンズのデビッド・サムソン社長による、イチローに関するコメントである。 前者は、2007年7月にイチローがマリナーズと5年総額9000万ドル(約110億円)で再契約した時のもの。否定しているのは契約の大きさだが、イチローの価値を否定しているのと同じ。イチローのチームへの貢献度は、ゼロとまで断言している。一方で後者は、先日、イチローの再契約を発表したときのコメントだ。 いったい、どちらが本音なのか。 最初のコメントを受けて、当時マリナーズの社長だったチャック・アームストロングは、「マリナーズのオーナーグループ、経営陣は、他チームがしたことに対し、例えそれが愚かに見えても、決して批判したことはない。サムソンのコメントは、なんとも奇妙だ」と強くサムソン社長を非難。確かに、他チームのトレードや契約を批判することは業界のタブーで、ゼネラルマネージャーだった温厚なビル・バベシ氏も、こう吐き捨てている。 「私の母親はいつも教えてくれた。これだけは言っていいよ、と。『サムソンのクソ野郎!』」 あれから8年。それだけの時間が経てば、それなりに人の考えは変わるかもしれないが、チーム貢献度ゼロの選手が、1980年台前半から90年代の終わりにかけてNBAで絶大な人気を誇ったジョーダンや誰もが知るビートルズと同列に昇格するとは。 ただ、マーリンズを長く取材しているある地元記者に聞くと、「そういうのは、昨日、今日始まったことじゃない」とサムソン社長を揶揄している。 「スタントンの時も言っていることと、やっていることがまるで違った」 マーリンズは昨年11月、ジャンカルロ・スタントントと13年総額3億2500万ドル(約390億円)で契約したが、ある条項が付帯されていることに、米メディアは驚いた。2013年11月、ジャンカルロ・スタントントの長期契約を念頭に、サムソン社長はラジオ番組でこう話している。 「トレード拒否条項は、チームにとっていいことなんてなにもない。(それを条項に加えるなんて)馬鹿げている」 サムソン社長は、我々が契約する選手にはトレード拒否権を与えないと断言。ところが蓋を開ければ、スタントンの契約にはトレード拒否条項が加えられていた。 ただ、そもそもそれがサムソン社長のよう。歯に衣着せぬ物言いで知られ、あとで矛盾が生じたり、トラブルになることもしばしば。