“親の期待に応えるいい娘”から抜け出すには?医師のおおたわ史絵さん「手放す勇気を持って」
親に相談する前に、やってみる
――キャリアだけでなく結婚や出産も、今持っているものを失うような気がして、躊躇してしまうことも……。 おおたわ: 世間体などから「しなければ」と焦っているだけなら、無理にする必要はないけれど、「したい」のに踏み出せないのは、やっぱり何かを手放すのが怖いからですよね。それでも、勇気を出してトライしてみたらいいんじゃないかな。 母の薬物依存と闘いながら生きてきた私にとっては、夫の存在がとてもありがたかったです。何か直接的な手助けを望んだわけではないんです。でも、そこにいるだけで、私の心が破綻しないための支えになっていました。ごく真っ当な夫という人間が、自分と社会の“楔”(くさび)になってくれたから、どんなにつらいときも道を踏み外さずにいられたと思う。だから私は結婚して良かったと、すごく思っているんですよ。 ――親の考えとは異なる自分の人生を生きたい、そのための一歩を踏み出したいと思っている読者にメッセージをいただけますか? おおたわ: まず自分がやってみたいと思うことを、やってみてほしいです。自分のために頑張っていれば、結果はおのずとついてくるはず。 それに、自分が期待していたのとは違っても、子どもが頑張ったことを喜んでくれる親御さんもいると思うんです。私にもそのような経験がありました。30代になってから、私は自分の意志で文章を書いたりメディアに出演したりすることを始めたのですが、当初、私の母はまったく喜んでおらず、むしろバカにしていました。でも、その陰では私が掲載されている雑誌を、大事に保存していたようなのです。 だから親の期待通りではなくても、頑張ってあなたが自分の人生を生きていれば、いつか一緒に喜んでくれることがあるかもしれません。失敗したって大丈夫。みんなに笑われたとしても、そんなの一瞬のことだから。何度だってやり直せばいいんですよ。
●おおたわ史絵(おおたわ・ふみえ)さんのプロフィール 総合内科専門医、法務省矯正局医師。東京女子医科大学卒業。大学病院、救命救急センター、地域開業医を経て2018年より現職。刑務所受刑者たちの診療に携わる、数少ない日本のプリズンドクター。テレビ出演や講演活動も行う。 ■『母を捨てるということ』 著:おおたわ史絵 発行:朝日文庫 定価:990円(税込)
文:塚田智恵美