「いまは デジタル広告 の過渡期。10年後の未来を守るための行動を起こすときだ」:キヤノンマーケティングジャパン デジタルコミュニケーション企画部 部長 西田健 氏
デジタル市場の再考を促す、DIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「REFRAME─デジタルの再考─」。今回は、キヤノンマーケティングジャパン デジタルコミュニケーション企画部部長の西田健氏に、今日におけるデジタル広告の課題を聞いた。 西田氏は、悪質なデジタル広告が急増している現状について強い憤りを示し、「デジタル上は治安の悪い繁華街のようなあり様だ」と例える。 そのうえで、「ブランドイメージをどう守り、あるいはどう変えていくのかが重要だ」と、デジタルにおけるマーケティングの心構えを説いた。いま、デジタル広告市場はどのような状況で、広告主はどう考えるべきなのか。西田氏の提言を聞く。 ◆ ◆ ◆
──現在の日本市場におけるデジタル広告の課題について、どう考えているか?
有名人の顔写真や弊社を含めた企業の名前が許可なく勝手に使われ、詐欺サイトに誘導するような広告が当たり前のようにデジタル上にあることに対して、強い怒りがある。とくにソーシャルメディア上は、粗雑な広告環境だ。ある大手ソーシャルメディアは2023年の年末ごろからとくに劣悪な状況が続いており、我々も広告出稿を引き上げようか、と思ったほどだ。 詐欺サイトに誘導するような反社会的な行為でなかったとしても、いまのデジタル広告全体の状況は、クリックさせるためだけ、あるいは倫理的に不適切な広告クリエイティブや広告フォーマットで溢れかえっている。ユーザーのことをまったく考えていない市場というのが、まず大きな問題ではないだろうか。 いま、デジタル上は治安の悪い繁華街のようなあり様だ。そうした場所を大人はもちろん、小さな子どもまでもが当たり前のように歩き回ってしまっている。たとえは悪いかもしれないが、1990年代の終わりごろ、繁華街の街角や電話ボックスは、伝言ダイヤル通話を誘う、いかがわしいピンク色のチラシやビラで溢れかえっていた。いまのデジタル上の猥雑さは、あの状況を思い出す。
──なぜ、そうした環境になってしまったのか?
デジタルの強みでもあるが、手軽に安いコストで広告運用ができるようになってしまったことが大きな要因だろう。当然、手をつけやすく運用コストが低ければ、詐欺的な手法を考える者も出てくる。 一方で、ユーザーを無視したような広告の蔓延は、短期的な目標を数値で追えるようになったデジタルの弊害とも言える。企業が広告を運用する以上、多くの人に見てほしいという目標があり、もちろん予算もある。より数字を上げる方向に走らざるをえなくなるのは理解できる。 これまで、広告は中長期的な感覚で社名や商品などの認知を上げていくことが基本だった。しかし、デジタルは即効性があり、かつ結果が明確に見える化できる。だからこそ、「結果ありき」の強引な手法が生まれてしまったのではないだろうか。