芸人・鈴木ジェロニモ「仕事で失敗したときに読みたい短歌」とおすすめの歌集を紹介
ふとした瞬間に訪れる心の揺らぎと向きあうとき、そっと背中を支えてくれるような短歌を鈴木ジェロニモさんに選んでいただきました。「直接結びつくかどうかわからないんですけど…」と悩みながら真摯に選んでくれた作品と、それらを収めた歌集の一部をご紹介します。 芸人・鈴木ジェロニモ 「こんなときに読みたい」短歌&俳句(写真)
仕事で失敗してしまったときに読みたい歌
「指さしてごらん、なんでも教えるよ、それは冷ぞう庫つめたい箱」 穂村弘『ラインマーカーズ』¥1045/小学館 鈴木さん 歌人の穂村弘さんは評論もされていて、「短歌における“よさ”って何ですか?」的な質問に答える場面も多いのですが、そのときによく「社会的な価値を反転させることができるのが短歌のよさです」みたいなことをおっしゃるんです。社会的には意味のあることがよいとされるけれど、短歌の中においては意味がないほうが、よさが増幅されることがあるんだと。 子ども同士や幼いきょうだいが話しているように見えるこの歌も、冷蔵庫を「つめたい箱」っていうのは社会的な意味としてはちょっと間違っているんですよね。中にあるものを冷気で冷やす箱ではあるけれど、冷蔵庫自体は冷たくないから。でも、彼もしくは彼女にとっては、「つめたい箱」というのが何よりも真実である。その真実性みたいなものが、短歌においては社会的な正解を凌駕する魅力を発揮する気がするんですよね。 この短歌自体は「失敗しても大丈夫だよ」というメッセージではないけれど、失敗した、つまり社会的には価値の低い選択をしちゃったときに、短歌が社会的な価値の反転を促してくれるものだと知っておくことで、もしかしたら違う捉え方もできるのかなって。
失恋したときに読みたい歌
「出会いからずっと心に広がってきた夕焼けを言葉に還す」 堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』¥2420/港の人 鈴木さん 「心に広がってきた夕焼け」って、要するに「好き」という感情とか、その人と一緒にいるときの安らぎみたいなものだと思うんですよね。朝日ではないから、沈んで真っ暗になる可能性もあり得るけれど、このぼんやりとした明るさがずっとあったらいいのになという希望を見出すような気持ち。 この歌を読むと、実は太陽が沈むときの光よりも先に「夕焼け」という言葉が存在していて、当て字の逆、いわば当て状況として「夕焼け」という言葉にあの状況がフィットしていったんじゃないかと思ったりするんです。そう考えると、マイナスなでき事とか絶望も反転させられるというか。 それから、どの歌を読んでいても時間がゆっくり流れる感じがあるんですよね。直接的に効果があるかどうかはわかりませんが、失恋したときの「あぁ、寂しい」「あぁ、悲しい」となるまでの時間を少し保たせてくれる歌が多いのかな、と思います。