「じゃあ、このピッチャーのクセはどこ?」大事なのは…元中日・荒木雅博氏が語る盗塁の"極意"とは【インタビュー】
5月14日に『プロフェッショナル走塁解体新書』(カンゼン)を上梓した元中日ドラゴンズの荒木雅博氏。 自身が現役時代に実践し、コーチとして伝えてきた技術を、写真や動画を交えながら細かく解説した一冊になっている。『ベースボールチャンネル』では、出版を記念して、荒木氏への特別インタビューを実施。現役時代の恩師のことから、気になる古巣の教え子のことなど、走塁をテーマに語ってもらった。
「口がとんがったらけん制」 ――「ピッチャーのクセ」という点で、今だから明かせるエピソードはありますか。 荒木 一番わかりやすかったのは、広島で投げていた左腕の河内貴哉投手ですね。信じられないかもしれませんが、セットポジションに入って、口がとんがったらけん制、普通の口なら投球でした。これは100パーセント。一番走りやすいクセでしたね。 ――そんなこともあるんですね。周りが気付きそうなものですが……。 荒木 口は盲点でもあるんですよね。足の幅や肩や顔の向きなどは、クセが出ないように自チームでもチェックをします。でも、「口がとんがったらけん制」という視点はなかなかないですから。 ――河内投手にはどこかのタイミングで伝えたのでしょうか。 荒木 彼が現役を辞めたあとに教えてあげました(笑)。 ――逆に走りづらかったピッチャーは誰でしょうか。 荒木 内海哲也投手(元巨人など)と、久保康友投手(元DeNA、現ハンブルク※ドイツ)ですね。とにかく、クイックが速い。けん制と投球の区別もつきにくい。そういうときは、盗塁に関してはもう無理をしないことです。あきらめる。好走塁は、相手の隙があって初めて生まれるもの。いつでも積極的に次塁を狙うことが良いとされがちですが、走れないものは走れない。それを知っておくのも大事なことです。 ――クセに関しては、見破るのが得意な選手がいれば、そうでない選手もいると聞きます。 荒木 大事なのは、ピッチャーの見方がわかるかどうか。その視点を教えてあげれば、見えるようになってくるものです。ただ、今は映像機器が発達しているために、どの球団も自チームのピッチャーのクセが出ないように映像をよく見ています。私の現役時代よりも、クセがわかりやすいピッチャーは減っていると感じます。 ――中日のコーチ時代には、そうした視点を伝えていたのでしょうか。 荒木 もちろんです。バンテリンドームで試合があるときは、試合前にスコアラー室に選手を呼んで、1日20分ぐらい相手ピッチャーの映像を見ていました。はじめのうちは、スコアラーにクセがわかりやすいピッチャーの映像を集めてもらって、「軸足のヒザにシワが入ったらスタート」というように、ひとつひとつのパターンを教えていきました。そのあとに、「じゃあ、このピッチャーのクセはどこ?」と自分で見つけられるようにして、本当に段階を踏んだ感じです。それによってスタートを切れるようになった代表格が岡林(勇希)です。 ――2022年に24個の盗塁を決めて、一気にブレイクしましたね。 荒木 岡林とはリード時の重心の位置や、スタートの切り方など、細かいところを一緒になって磨いていきました。たまたま、私のやり方が岡林にも合っていて、ハマったところはあります。体の強さや柔軟性は人によって違うので、合う合わないは絶対にある。自分がやってきた技術を押し付けることだけはしないように心がけています。 ――荒木さんがコーチを辞めてからの中日の機動力はどう見ていますか。 荒木 スコアラーに聞くと、岡林、三好(大倫)、村松(開人)は試合前にスコアラー室でピッチャーの映像を見ながら、クセについて話していることが多いそうです。もうそれだけでも、コーチとして教えてきたかいがあったかなと。自分たちでできるようになるのが理想ですからね。 ――自立ですね。 荒木 バンテリンドームの特徴を考えると、ホームランで得点を挙げていく戦い方はどうしても難しい。足を絡めて、どうやって1点をもぎとっていくか。盗塁に関しても、ミスを恐れずにどんどんチャレンジしてほしいと思います。 ▼荒木雅博(あらき・まさひろ) 1977年9月13日生まれ、熊本県出身。熊本工業高から1995年のドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。ゴールデングラブ賞6回、盗塁王1回(通算378盗塁)のタイトル実績が示すとおり、抜群の脚力と安定した守備で2000年代の中日黄金期を中心選手として支えた。また2004年からは3季連続でベストナインに選出。2017年に2000本安打を達成。翌年に現役を引退した。同年、二軍の内野守備走塁コーチに就任し、2020年から2023年までは一軍の内野守備走塁コーチを務めた。2024年は野球解説者・評論家として活動している。
ベースボールチャンネル編集部