久遠チョコレートの奇跡~20年の格闘の物語
全国のこだわり食材で絶品量産~「思い」を後押しする企業も
夏目が商品作りで注力するのは、高い付加価値を生み出す食材探しだ。 「面白そうな食材があったら全国どこでも行きます。この後は山奥へ入ります」(夏目) 見えてきたのは豊橋市から2時間の場所にある愛知・東栄町の茶畑。標高は700メートル近く、雲海が出るほどの高さだ。 夏目は、ここで独自の製法にこだわる「おもてや園」代表・尾林威行さんのお茶作りに感動し、チョコレート作りに使い始めた。 「霧や湿度で葉のやわらかさを保ちやすいんです」(尾林さん) 農薬などは一切使わず、摘み取るのも1番茶のみという「雲上茶」。それ以降の茶葉は切り落とし、自然の肥料として使っている。 「できる限り自然の力を生かして、『いいお茶にしてください』と頼むような感じの農法です。チョコにしたことはなかったので、すごくおいしくてうれしかったです」(尾林さん) 尾林さんの茶葉を丁寧に臼で引き、厳選されたチョコと混ぜ合わせたのが「東栄町雲上一番茶テリーヌ」だ。 夏目が見つけ出した食材を使い次々に商品を生み出すのが、10年近く久遠チョコレートの開発を担う山本幸代と餅田有希子。この日、試作していたのは酒粕パウダーのチョコだ。 チョコに混ぜ込んだ酒粕も普通のものではない。数々のコンテストで金賞を取る栃木・市貝町の「惣譽酒造」。ここでは、今ではほとんど行われなくなった天然の乳酸菌で時間をかけて発酵させる「生酛(きもと)づくり」という製法の酒造りを行っている。 「うまみや酸味が出やすい飲み飽きないお酒です」(「惣譽酒造」河野道大さん) このこだわりの酒粕もパウダーラボで粉にして、今までにない久遠テリーヌを作るべく、さまざまな配合を試していく。試行錯誤の末、「……香りがきていますね」(餅田)。そこに玄米とナッツを乗せると「完璧、めちゃくちゃおいしい」(山本)。 日本各地のこだわりの食材を障害者たちが丁寧に加工し、他にない最高の味わいに仕上げていく。そんなユニークな手法で、年商は18億円にまで拡大した。 久遠チョコレートはさまざまな企業からも注目されている。 全国でコールセンターを展開する「ベルシステム24HD」。オフイスの一角にあるカフェでは「久遠のテリーヌ」など久遠チョコレートの商品を扱っている。