福祉とアートを一変させたブランド「へラルボニー」、世界を巻き込みながら課題解決を目指す
「アートをどのように世の中に出していこうかと考えたときに、初めて作ったプロダクトで今も愛用いただいているのがアートネクタイでした。アーティストによる原画の質感だったりテクスチャーを、老舗紳士洋服店の銀座田屋の技術により、再現性高くシルク織で作った製品です。他にも日常のアクセントとして加えられるようなプロダクトから始まりました」(へラルボニー広報・小野さん) パナソニックとの仕事は、その取引の大きさゆえに会社を加速させた。 「創業から翌年、初めて上場企業との共創が実現したのがパナソニック様のオフィス空間を弊社のデザインで装飾するお話でした。創業して間もない頃、弊社が活動をしていた拠点が、パナソニックが渋谷で立ち上げた起業家を支援するワークスペース『100BANCH』でした。このオフィス装飾のプロジェクトが引き金になり、さらなる依頼や商談の機会をいただく機会も増えました」(同・小野さん)
その後もアートのハンカチで行ったトゥモローランドとのコラボレーションなど、へラルボニーは知的障害のある人々によるアートを、着実にメインストリームに引っ張り出した。 一方で、世間にある“常識”が時にそれを邪魔することもあった。福祉に関する商品は安いという既成概念である。たとえばへラルボニーが出すネクタイの小売価格は、現在1本あたり税込み35,200円。ネクタイの価格としては高価だ。
「日本の職人によるシルク織の技術で、アートの魅力を最大限に生かしたプロダクト開発をしています。販路も少ないため、少量で作るとどうしても原価は安くは収りません。実直にものづくりをしていくなかで出てきた価格に、作家へのライセンス使用料を含めて値段設定をしています」(へラルボニーのプロダクト担当・福井さん)
しかし、正当な価値をフィルターなく認めてもらうための説明とその解決策は常に探っている。そのひとつが、へラルボニーが契約するアーティストの価値を高めることにある。 「たとえばシャツ1枚が10万円であってもそれが価値として認められるブランドもあります。もしへラルボニーがそう思われないのだとしたら、社会における知的障害のある人のアートというのはこれくらいなんだという基準が、まだ低いんじゃないかともいえるのではないでしょうか。 へラルボニーの契約アーティストが世界で評価されるようになり、作品が有名美術館に所蔵されるような段階にまで将来的には持っていきたい。高品質なモノづくりにこだわることと同時に、『障害=欠落』というイメージや障害者が作ったものは安いといった概念を変えて、そのギャップを埋めたいです」(同・小野さん)