福祉とアートを一変させたブランド「へラルボニー」、世界を巻き込みながら課題解決を目指す
LVMHも関心を寄せたへラルボニーとはどのような会社なのか。その歩みをひも解くと、各アーティストとの地道な信頼関係の構築と、不断ない価値付けにある。 事業を始めていく上で、まず松田さん兄弟は、日本各地の福祉施設を巡った。会社のビジョンについて説明して信頼を重ねるためと、まだ見ぬアーティストの原石を探すためだ。 現在へラルボニーは、37施設153名のアーティストと契約があり、2,000点のアートデータを保有しているが、「アートとして純粋に評価できる作品かどうかを大切にしている」と同社広報の小野さんは基準を語る。金沢21世紀美術館でチーフキュレーターを務める黒澤宏美氏がヘラルボニーのアドバイザーとして、アートの起用や展示会のキュレーションを担当している。 そのへラルボニーからの今までにない提案とアプローチは、アーティスト側に金銭面以外にも新たな変化をもたらしている。
契約アーティストのひとりである福井将宏さん。福井さんにとっての制作とは「不確定なことへの不安や苛立ちを忘れて没頭できる時間」(福祉施設「からふる」担当者)だ。 普段の生活と異なることへの対応が苦手だった福井さんだったが、へラルボニーの仕事を請けるようになってからは変化が現れた。「取材にも対応してくれるようになりました。描く(書く)行為が『伝える』ことだと思えるようになったのか、施設でも家庭でも書いて伝える様子が増えてきた」と施設担当者は述べる。
同じく契約アーティストのひとりである伊賀敢男留さん。彼もアーティスト活動を通じて刺激を受けている。 「(へラルボニーの)キービジュアルの写真撮影やファッションショー出演では、他の人と話すことはできなくてもチームの一員になれたような晴れ晴れとした表情をしていました。絵を描くこと以外でも充実感を得る経験ができた」と伊賀さんの母親は息子の様子を語る。
福祉の課題である「安い」を打破するということ
これまでのへラルボニー(および2018年に法人化してヘラルボニーと名称変更する前の「MUKU」時代)の事業展開において、鍵となる転機はいくつかある。たとえば、BtoCにおけるそれがネクタイ販売で、BtoBについてがパナソニックからの受注である。