「アルト・ターボRS」から見えるトランスミッションの未来
中型以上のトランスミッション
トルコンステップATは、発進機構としてトルコンを用い、変速はプラネタリーギアを油圧で動かす方式。だいぶ前から変速の制御そのものは電制になっている。そもそもの素性としてこのクラスに求められる洗練性が高い。トルコンの特性で発進のマナーがよく、電制の進歩によって変速時のトルクの途切れ感や、かつては酷かった変速時のショックもすっかり洗練された。近年では電制ロックアップ制御の進歩によって、従来苦手としてきた伝達効率の悪さも克服した。 そうなると構造的にギア比の設定の自由度が高いことが活きてくる。最小ギアと最大ギアの比率(レシオカバレッジ)を9倍から10倍と大きく取り、その大きなレンジを多段化でケアし、エンジンを回さずにどんどん上のギアにあげていく制御をすることで燃費にも有利になる。時速100キロでのエンジン回転数が、計算上わずか1100rpmに抑えられるミッションもある。こうしてエンジン回転を抑えれば、燃費は当然だが静粛性も高い。 近年隆盛を誇る小排気量ターボは低回転で過給圧を上げるため、トレードオフとして高速側で過給が足りず、結局快適に使える有効パワーバンドは狭いだのが、前述の通り、多段ギアはこの特性を補完してくれる。そうした諸々によって、低環境負荷とプレミアム性の高い両立を求められるこのクラスに最も適合性が高いのだ。 DCTは部品点数が多く、重量が重く、価格もまだ高い。一方、変速の速さは群を抜いている。変速のマナーについてはCVTやトルコンステップATには及ばないが、ものによってはかなり良くなっている。発進時のマナーはクラッチシステムに依存する。ホンダの様にトルコンを使ったシステムなら洗練されたものになるが、クラッチを使ったものはその制御次第で良し悪しが決まる。まだ少し未成熟なところはある。 DCTを全体的に見ると多少の重量増加や価格のアップを厭わない高出力モデル用のスポーツミッション、あるいはプレミアム性を持たせたいモデルに用いるトランスミッションとして最も特長が活きてくるだろう。