「アルト・ターボRS」から見えるトランスミッションの未来
インド市場を意識した?スズキ
こうした世界のトランスミッション事情を考えれば、スズキがなぜAMTを開発したかは自ずと見えて来る。スズキは日本の自動車メーカーでいち早くインドに進出したメーカーである。次の巨大市場と目されるインドがオートマ志向の強いマーケットであることは前述の通りだ。スズキがそう睨んでいることはAMTの生産をすでにインドのマネサール工場で始めていることからもうかがい知ることができる。中国の内陸部とアジアの新興国マーケットでは現在のところマニュアルが主流だが、今後ユーザー数が増えていけば、オートマの需要が高くなることもまた予想できる。 これらのマーケットで日本と同じくCVTやトルコンステップATが受け入れられれば何の問題もないのだが、問題の根っこはメンテナンスインフラの整備と技術の向上なのでそれなりに時間がかかる。それならばむしろAMTの制御をより高精度にして、現在問題になっている発進と変速のマナーを向上させた方が現実的で手っ取り早い。 実際、アルトは今回のターボRSで、通常のモデルより変速の精度をツメてきた。所詮は人間の操作のエミュレーションである。必要なフィードバック情報が特定できればできないことではないはずだ。 そしてもし、この二つの欠点が改善されれば、日本国内のマーケットもAMTでカバーできる。生産コストがほぼマニュアルトランスミッションと同じで済む上、部品の共用化が進むことのメリットは多い。 スズキはトルコンステップAT、CVT、DCTの利害得失を比べた上で、AMTに勝機があると見ているのではないだろうか? 他社に先駆けてそうした技術を持てれば今後の伸びしろが最も期待できる新興国マーケットに覇を唱えることができる。そして狙いがもしそうだとすれば、AMTは毎年年次改良を重ねて、熟成されていくに違いない。 アルト・ターボRSはスズキの世界戦略のテストベッドとなる大きな意味を持つ一台なのかもしれない。 (池田直渡・モータージャーナル)